2012-03-08

LINEでの経験に学ぶ「グローバルアプリを生み出すための5つのポイント」

こんにちは、ウェブサービス本部マーケティングコミュニケーションチームの矢嶋です。「LINE」「NAVERまとめ」ほか、ウェブサービス本部で運営しているサービスのマーケティング業務に携わっています。

私の担当するLINEは無料通話・無料メール機能を搭載したスマートフォンアプリとして、サービス公開から7ヶ月あまりで、世界約200カ国、累計1,700万ダウンロード以上(※2012年2月16日時点)を記録しています。また、東アジアを始めとして中東、ヨーロッパ地域を含め総計15カ国のApp Storeで無料総合1位を獲得しました。 (登録ユーザーの比率は日本が約4割で、海外が約6割)

なぜLINEがこれほどまでにグローバルで急速な成長をするアプリとなったのか?今回は、LINEでの経験をもとに「グローバルアプリを生み出すための5つのポイント」というテーマで、お話させていただきます。


 <目次>
ユーザーニーズの把握と市場への投入タイミング
「価値性」を武器に戦う
グローバル対応の手順と勘所
スマートフォンアプリ市場におけるマーケティング
求められるマインド
おまけ

1.ユーザーニーズの把握と市場への投入タイミング

まず、"本質的"なユーザーニーズの把握と、プロダクトを市場に投入すべきタイミングについてお話します。

新しいデバイスが世の中に登場し、インターネットの歴史においてまさに時代の大転換と呼べる状況が今起こっています。

このチャンスを最大限に生かすには、 スマートフォンの世界共通のユーザーニーズを先取りすること競争力のあるプロダクトをいち早く実現し、市場に投入することの2点が重要です。

世界中のアプリマーケットのランキングを見ると、主に人間の「普遍的な欲求」に基づいているものや「実生活・社会生活との接点」があるものは、国籍関係無く、グローバルに受け入れられやすいことがわかります。(例:ゲーム・写真/カメラ・コミュニケーションツール)そこで、LINEの場合は、数ある領域の中でも「コミュニケーション」に注目しました。

社会的な背景を見ると、Twitter/Facebookといったセミオープン型の「新たな出会い」の機会を提供するSNSが爆発的な成長しています。その一方で、ユーザーは、職場や友人、家族など多様な人間関係ごとにコミュニケーションツールを使い分けることができず、結果的に様々なひずみ・しがらみが生じていることが見受けられます。そのようなことから、今後は「人と人との結びつき、大切な人とのコミュニケーションを深化させるサービス」が求められるのではないかと考えたのです。

私たちは2011年4月下旬からLINEの企画をスタートさせ、わずか1.5カ月後にはサービスを開始しました。サービス開始当初は、「無料通話」、「スタンプ」といった機能もなく、グループチャット機能しか存在しませんでしたが、まずは市場にリリースすることを重要視しました。

市場構造が急速に変化している状況にあっては、万全な機能・体制を整えてからリリースするのではなく、本質的な価値さえ担保されていれば、最小限の機能でもまずはリリースをし、市場の反応を見ながら改善をしていくスタイルがもっとも適しているのではないかと思います。

2.「価値性」を武器に戦う

続いて、 スマートフォンアプリにおいては新規性=イノベーションはさほど重要でない、という話です。

テクノロジーイノベーションが必須のPCの世界と異なり、スマートフォンの世界はまだまだ未成熟市場であり、これから普及率があがる状況です。現時点の先行サービスのシェアを恐れていけません。
 
全く未知の価値を持った新規サービスを自国以外で理解してもらうことは時間がかかります。それよりは、世界に競合するサービスがある(=ニーズがある)領域に対し、+αの価値を持ったサービスを素早く提供し続けることにより、 「理解」のためのマーケティングコストを圧縮することが出来ます。

つまり、「価値性」=サービスバリューイノベーションが武器となる時代ではないかと考えています。

LINEの属するモバイルメッセンジャーというサービスカテゴリも決して新しいカテゴリではありません。 このカテゴリにはSkype・カカオトーク・Viberなどが既に先行で参入しており、我々は最後発と言っても良い状況でした。

このような状況のなかで、私たちは、+αとして特に使い勝手の部分、主にレスポンスの速さ、リアルタイム性、つまり「話すように使えること」を最重要視しました。キャリアメールよりもインスタントにコミュニケーションできること。「電話をするまででもないが、メールするほどでもない」といったコミュニケーションニーズの隙間を埋めてあげること。そのために、例えば「スタンプ」など、非言語でのコミュニケーションにも注力しました。

スマートフォン時代のメッセンジャーサービスとしてLINEがこだわっているのは、シンプルに、無駄な機能などを削ぎ落とし、極力シンプルなUI・操作性を実現することです。そして究極的には、メールやメーリングリストといった旧来のコミュニケーション手段を代替する存在となることを目指しています。

3.グローバル対応の手順と勘所

3番目はグローバル対応についてです。

最初から海外を意識したマルチ言語対応は不要であり、特に狙うエリアが無ければ、まずは、自国言語と英語版だけ用意すれば良いと思います。

その後は、各国のランキングの上下に毎時間注意し、リソースをかける国を柔軟に判断する形がもっとも効率的です。まずはUIデザインのローカライズから始めて、段階的に利用規約、ヘルプ、CSなど対応範囲を拡大させていくのが良いのではないでしょうか。

LINEの場合、まずは日本語版と英語版からスタートしました。その後、東アジアでの盛り上がりを受けて、8月に韓国語、11月に中国語を追加し、現在は、トルコ・アラビア語・ドイツ語などの準備を検討しています。

グローバル対応の大前提として、UIデザインやアクションは極めてシンプルである必要があります。皆さんがそうであるように、多くのユーザーは「説明を読まない生き物」です。海外のアプリなどを比較調査しながら、言語を用いずとも直感的に利用できるよう、極限までシンプルなアプリを目指しましょう。


4.スマートフォンアプリ市場におけるマーケティング

5つのポイントのうち、4番目はマーケティングに関するお話です。

PCサービスの市場と比べてスマートフォンアプリ市場が特徴的なのは、App Store・Android Marketという2大グローバルプラットフォームが覇権を握っていることです。これらのプラットフォームのおかげで、PCサービスと比べて大幅にマーケティングコストを圧縮できるという利点があります。

PCサービスで海外にマーケティングを行うとなると、現地法人を作り、マーケット調査を行い、バナー広告を打ち、、といったマーケティングコストが多額にかかりますが、スマートフォンアプリの場合は、App StoreとAndroid Marketでランキング上位に入れば、自動的にクチコミで波及・拡散していきます。

そして、流行の兆しが見え始めた段階で、プレスリリースやTwitter/Facebookアカウントを用意し、積極的に情報発信やユーザーコミュニケーションを行うことから始めれば良いと思います。オンライン広告やTVCMなどは芽が出てからで構わないと思います。基本は「PR first、Advertising second」ですね。

LINEの場合は日本国内においてはTVCMなどを積極的に実施していますが、海外ではほぼノンプロモーション、ユーザーのクチコミのみで広がっています。ただし、今後、更に成長スピードを加速させるため、2012年はアジア諸国での広告・マーケティング展開も段階的に進めていく予定です。

参考までにLINEは6ヶ月で1000万ダウンロードを達成しましたが、Twitter/Facebookでは1000万ユーザーを達成するために2年以上要しています。このスピード・ペースは、スマートフォンアプリでなければありえなかった数字です。急速に世界中で加速するスマートフォンの普及に伴い、PCの時代では考えられなかったことがいま起きています。だからこそ、スマートフォンアプリ市場の特徴を抑えたマーケティングを考えることが必要です。

5.求められるマインド

5つ目は「マインド」です。

これまで述べてきたように、スマートフォンの世界では、まだまだ未成熟市場であり、世界的にこれから普及率があがる状況です。今の先行サービスのシェアを恐れていけません。また、世界共通のニーズを掴んだサービスであれば、簡単に国境を越えていくことができる時代です。

これまで「タイムマシン経営」と揶揄されたように、シリコンバレー発でサービスが生まれて、それが時間差で日本にローカライズされて輸入されてくるのが常でしたが、もはやそういう時代ではありません。日本発でも世界で戦える時代だと思います。

このような素晴らしい時代において、どうせチャレンジするのであれば、最初から世界を目指してみてはいかがでしょうか。

私たちも今まさに、LINEで世界へチャレンジをしています。2012年の目標は世界で1億ユーザーです。私たちのライバルはFacebookです。馬鹿にされるかもしれませんが、私たちはFacebookに勝つことができると本気で信じています。

6.最後に

現在、LINEは海外のメディアやブログでも多く取り上げられ、香港のテレビ局などでは、LINEのステッカー機能をパロディ化したテレビ番組が放映されるなど、様々な反響をいただいています。

また、卑近な例で恐縮ですが、先日、台北市内で開催されたブロガーイベントに招待していただき、LINEに関する講演と取材を受けてきました。その半年前にLINEをリリースした段階では、よもや自分がLINEの紹介をしに台湾に赴くとは全く想像をしていませんでした。

以上のような喜ばしい出来事ばかりではなく、大小関わらず世界各国で発生するトラブルの対応にも追われることもあり、毎日がある種の「お祭り」であるかのような感覚で日々過ごしていますが、TwitterやFacebookで見かけるLINEを愛してくださっているユーザーの皆さんの声が、何物にも替えがたい刺激と励みになっています。

日本のアプリ企画者・開発者の皆さんにとって、我々の事例が少しでも参考になれば幸いです。ぜひ一緒にチャレンジしましょう!

NHN Japanでは共に「日本発・海外」を目指すことのできるディレクターを募集しています。

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