2011-01-10

搜索不再為王 2011年IT界九大臆測

作者:馬文方
《中國計算機報》高級副總編。《中國計算機報》創刊于1985年,是中國最具影響力的IT報刊之一。



1、搜索不再為王

人們曾經因搜索的重要性把它比作互聯網的“操作系統”。但去年秋季的“3Q”之戰,還有Google不惜全員提薪并許諾給予大把股權,以阻止其工程師跳槽到FaceBook,足以證明社交網絡取代搜索成為互聯網的新霸主只是時間問題。

很大程度上看,搜索還是產品的概念,而社交網絡才是運營的形態。你可以輕易地在不同的搜索引擎之間進行切換,但卻很難讓你的親朋好友在不同的社交網絡之間整體遷移。

2、互聯網市場能自潔嗎?

人們曾經認為Google把“不作惡”作為行為準則之一有點搞笑,如今恐怕會認為這事兒的確很嚴肅。去年,Google街景車在拍攝過程中“摟草打兔子”——通過無線裝置截獲了眾多私人郵件和密碼等個人信息,Google對此的解釋是“意外收集到”。去年年初,Google被曝其工具條被卸載后依舊在收集用戶的瀏覽信息,Google解釋為“軟件漏洞”。漏洞是軟件開發疏忽無意造成的,而悄悄地主動收集信息,行為上與內置軟件后門沒有兩樣。

而騰訊與360安全衛士之爭中QQ用戶的首當其沖,同樣令人深思。

這說明伴隨著互聯網企業規模膨脹的,恐怕還有一些難以抑制的霸道行為。當某一市場形成壟斷后,指望壟斷企業“不作惡”可能有些天真。

筆者認為,騰訊與360衛士之爭目前只不過是暫時偃旗息鼓,并未真正了結。

3、商業模式急劇變化

如果保持原有的商業模式,IBM依舊只是一個打卡機廠商,諾基亞還在做著木材生意,而三星則只是賣咸帶魚的。這些公司能夠演進至今,成為ICT產業的巨人,是因為它們的商業模式順應了市場的變化。如今,以移動互聯網、云計算為標志的技術與市場變化,必然導致企業商業模式的變化。

從近幾年的財務報表看,軟件的利潤貢獻率將會讓強調服務的IBM重新審視服務與軟件孰重孰輕;微軟力推的“云+端”戰略,正在嘗試改變其原有的盒裝軟件商業模式;英特爾為對抗ARM正在試探著改變40多年來芯片從設計到制造完全在企業內部進行的封閉模式;收購Sun使得Oracle選擇了從芯片到應用自給自足的垂直封閉體系;4年前,Google CEO在北京告訴筆者,既使員工人數跟微軟一樣多,Google也只會專注在搜索上,顯然,施密特現在改變了他原有的想法。筆者比較擔心的倒是傳統的PC廠商該如何變化。

順便說一句,筆者還很看好被媒體冷落的諾基亞。從微軟挖來的新CEO對3G和云計算有深刻的理解,還將用以創新為特征的軟件文化去改造保守的電信企業文化。

4、CPU個性化成為可能

自從諾伊斯1958年發明了集成電路平面工藝以來,CPU的制造過程大都是:在硅圓片上經光刻等工藝制成管芯(Die),然后,這些承載著大量管芯的圓片經過下一階段的封裝測試,便成為了帶有眾多管腳的芯片。

用戶從來沒有想過把個性化的功能添加進CPU中。去年,英特爾在凌動CPU上集成了Altera公司的現場可編程門陣列(FPGA),使得用戶可以通過對FPGA的編程,在凌動芯片上實現個性化的接口邏輯。

這僅僅是個開始。未來,FPGA將與CPU結合得更為緊密,用戶可以把應用算法做成引擎放入芯片中。換句話說,未來的芯片將根據具體的應用,實時進行優化。

5、移動通信市場大戰

得益于摩爾定律,如今人們已經把越來越多的功能集成到一個芯片中,集成電路的SoC(片上系統)的發展,已經大大簡化了手機硬件系統的復雜性,在有效降低成本的同時,也顯著拉低了手機市場的技術進入門檻。智能手機市場幕后“老大”ARM與免費智能手機操作系統的所有者Google為了擴張智能手機市場的占有份額而一再降低入門級智能手機的價格。一場手機大戰將在今年或者說今夏不可避免。

而對于聯通和中國電信來說,利用3G的機會擴大用戶群,成為當務之急。聯通通過iPhone吸引高端用戶,而中國電信則在資費優惠上大做文章。在移動運營商普遍缺乏黏滯性業務的今天,攜號轉網對于市場的作用或許會在今年顯現出來。

6、微軟支持ARM?

有傳聞說微軟將支持ARM處理器。筆者以為,這事兒在技術上并沒有難度。不要以為微軟只在x86平臺上做事情。Windows NT早年是先在Alpha平臺上開發的,后來,微軟又在Power PC平臺上為蘋果機開發過辦公軟件和瀏覽器。人們熟知的微軟游戲機Xbox用的是Power處理器,而Zune播放器則采用的是NVIDIA基于ARM的Tigera處理器。這些處理器有一個共同的特點,都是精簡指令集(RISC)。因此,微軟支持ARM是有技術基礎的。而且,在微軟“云+端”戰略中,移動設備市場勢在必得,而ARM占據著移動市場絕大部分的領地。

人們也不必擔心Wintel聯盟,因為自從英特爾大張旗鼓地支持Linux后,Wintel聯盟已經不復存在。

7、平板市場能容得下第三者嗎?

以對用戶體驗的精準把握和在產品設計上追求完美主義,喬布斯用iPod改變了音樂市場的規則,用iPhone掀起智能手機狂潮,如今又以iPad讓蓋茨多年來的平板電腦Tablet PC夢想變為市場現實。第二代iPad的推出,將進一步鞏固蘋果在平板電腦市場的霸主地位。

市場的第二名無疑將屬于基于Android+ARM的平板電腦,目前還沒有一款處理器能夠像ARM讓iPad擁有10小時續航時間那樣,讓平板電腦超長時間工作,而之前微軟的Tablet PC就吃虧在體積大和續航時間不長上。與傳統PC業的競爭不同,智能手機和平板電腦的競爭是包括網上商店在內的整個生態環境的競爭。蘋果和Google已經先入為主地通過智能手機建起了生態環境壁壘,而其他軟硬件架構再進入該市場的前提是再造一個生態環境。

8、ARM會被收購?

iPhone、iPad、Android手機的背后都有一顆ARM的芯。在嵌入式領域,MIPS盤踞在網絡設備市場,而ARM幾乎霸占了整個移動設備市場。目前而言,移動設備廠商要想在市場做事,與ARM的競爭是很難回避的。

平臺競爭是IT廠商競爭的法寶。由于ARM CPU與Android相互做了很多優化,因此,收購ARM對于Google來說,是拓展移動搜索市場和主導移動設備市場最有力的保障。

談到微軟,筆者曾經寫過《給鮑爾默支一招:不妨收購ARM》一文,因為移動市場是微軟的必爭之地。在激烈的市場競爭環境下,手機廠商對成本錙銖必較,微軟要靠WindowsPhone7收費的模式恐怕難以行得通。因此,無論是從自身發展角度還是從對抗Google的角度看,微軟都很有必要收購ARM。

9、物聯網回歸技術

工程學的規律告訴我們,凡事先要進行技術研發,再做成樣機,最終做成產品,從而避免資金的浪費;在涉及到互聯互通的系統時,還應該標準先行。比如說我國在2009年發放了3G牌照,而早在1998年我國就將TD-SCDMA標準提交給了國際電信聯盟。

在物聯網定義尚未統一,國際物聯網產業還處在關鍵技術開發和應用嘗試探索的階段,規模應用還是5年之后的事情。那時,國內很多地方卻已經“有條件的要上,沒有條件創造條件也要上”,大張旗鼓地搞起來了。

在各地的物聯網產業規劃紛紛出臺后,物聯網的技術路線圖的發布就顯得更為重要,也更為迫切了。物聯網技術路線圖不僅要指出物聯網有哪些關鍵和核心技術,何時、如何突破,還應該指明,物聯網是由傳感層、網絡傳輸層和用于決策的數據處理層構成的。即便是在傳感層,除了傳感器網絡以外,物聯網的核心技術還應該包括RFID,甚至條碼。

要知道,工程學規律的掌握是用金錢和失敗換來的。

白熱激論! 田原総一朗×孫正義

「第3のパラダイム転換を迎えた日本」
電子教科書は日本を救うか 
田原総一朗


田原:孫さんが最近、しきりにおっしゃってる「光の道」というのがあります。ただ一般の人には(どういう問題なのか)よく分からない。

 もう一つ、90年代はビル・ゲイツの時代だったといわれています。これはいわばコンピュータ、パソコンを動かすソフトが中心でウィンドウズの時代でした。

 で、今はスティーブ・ジョブスの時代だといわれる。まさに孫さんがやってらっしゃるiPhone、iPadもそうですが、これからクラウドの時代だという。

 日本でいちばんクラウドの最先端にいらっしゃるのは孫さんでしょう。今日はそのへんからまずお話をお聞きしたいと思います。

孫:クラウドの時代と最近はいわわれはじめていますね。一言でいうなら、インターネットの雲の上のようなイメージです。

 これまでは会社でいえば社内にサーバーがあって、それにパソコンが繋がっていた。自宅でいえば自宅にあるパソコンで、その中のソフトやデータを使ってそのまま仕事をするということでした。これが変わった。

 ネットワークの上に、たとえばグーグルのサーバー群がズラッとある、ヤフーのサーバー群がズラッとある、そういうネットワークの上に全部まとめてある情報の固まり、それを世界中の人々が、まるで直接、会社の中でアクセスしているように、自宅の中でアクセスしているように、一瞬でその情報を手に入れることができる。これがクラウドコンピューティングだと思うんです。

田原:クラウドとは日本語で「雲」ですね。

孫:「雲」です。

田原:コンピュータの世界ではパソコンを100台繋ぐと、スーパーコンピュータ以上の力が出ると言われてますね。

孫:ありとあらゆる情報が入る。たとえば医療でいえば、日本国民全員の健康診断の情報、いろんな検査の情報、それがすべて格納されている大きな巨大なデータベースセンターみたいなものですね。

田原:今は別の病院に行くと、また一から診察しなきゃいけない。

孫:そうなんですね。だから、一つの大きな、例えば虎ノ門病院なら虎ノ門病院の中で検査結果は全部終了してその中にデータはあるんですけども、慶応病院に行ったらまたもう一回ゼロから検査をしなくてはいけない。

田原:今はそうなっています。

孫: これが「医療クラウド」という形でできると、日本中の病院、しかも大病院だけではなくて、小さな町のクリニックで受けた検査も、共通の一つの巨大なデータセンターにすべての病院の情報が入っている。いまは、小さな町のクリニックでは、いくら腕に自信のあるお医者さんでも、優れた機械、高い何億円もする機械がないから複雑な診断ができない。

田原:わざわざ東京に来なきゃいけない。

孫:ところがこれからは、検査なら検査ばかりする巨大な高い何億円、何十億円する検査システムがあるところで人間ドックとか受けて、その結果を町のお医者さんがクラウドから引き出して、そこでホームドクターのような形で検査結果を見ながら診断できる。

 また、セカンドオピニオンで別のお医者さんに聞きたいといったら、またそっちへ行けばいい。

 医療の世界一つでも、それが言える。教育の世界でもそれが言える。あるいは企業の中でも自分の取引先とのデータだとか、業界全部の情報が入っているとか。
情報を活用する力さえあれば大資本に負けない

田原:企業でいうとどういうことができますか、クラウドになると?

孫: 個人情報については伏せなくてはいけないところはいろいろありますけども、個人情報に関わらないところで、例えば自動車業界で言えば自動車業界全部のあらゆる部品がすべて入っている。どこの整備工場でいま車検のスロットが空いてますとか、整備担当者の誰々が空いてます、なんて情報が共有できる。

 旅行に行くのでも、ゴールデンウィークの三日前なのに、まだ空いている部屋はどことどこだ。いままでなら、例えばヤフートラベルならヤフートラベルの中だけ閉じている。もし旅行業界全部の「旅行業界クラウド」というのができれば、楽天トラベルもヤフートラベルも、JTBもHISも、いろんな情報が全部「旅行業界クラウド」で調べることができる。例えば・・・。

田原:それはユーザーにとってはとってもいいですね。

孫:うん、そうですよ。

田原:でも、企業にとって見るとね、優劣がなくなっちゃうと商売にならないんじゃないですか。

孫:だからそれを上手に使いこなせる企業と、後ろからついて行く企業の差が出てくるとは思います。でも少なくとも今までは大資本で多くのお客さんを持っている企業だけが差別化できる、大企業であるが故のメリットだったのが・・・。

田原:大きいことがいいことだと。

孫:今まではですね。だけど今度は町の工場だとか町の中小企業でも、大企業と同じだけの情報武装ができる。同じように病院だって、大病院でも必ずしも力のある先生ばかりとは限らないわけですね、案外、大病院ほど若いお医者さんだったりするわけですよね。

田原:つまり情報も、ユーザー、患者に分かるわけだね。

孫:そうですね。

田原:例えばがんセンターならこの医者はいいと。

孫:そうそうそうそう。

田原:でもこの医者は大したことないよと。

孫:そうです。だからやっぱり「見える化」が始まるっていうことですよね。とにかく20世紀というのは、ものづくりでも大きな資本、大きな工場を持っているところが全部有利。これはまさに資本主義の世界ですけども。

田原:今でもまだ残ってますね。

孫: でもこれからは資本があるところが強いというより、情報を上手に活用できる人々が強い。情報の民主化みたいなものができて、従って中小企業でも、あるいは個人のお医者さんでも優れた能力さえあれば、あるいは情報を活用する力があれば、大資本と互角に戦える時代が来たということだと思いますね。
国際競争力が1位から27位まで転落

田原:この間、台湾のある経営者と話をしたら、中国はもう大マーケットになっていろいろなものが売れてるんだけど、その中でも、たとえばある機械でも何でもいいですが、中を見て『Made in Japan』という部品がいっぱい入っていると信用があるんだそうですよ。ところが大事なことは日本の部品屋さんは海外へ行けない。台湾のその経営者は、日本の部品屋を会社ごと買おうかと言っていた。こういう話がある。

孫:うん、そうですね。一つひとつを作る能力、真面目にしっかりとした壊れないものを作るのは日本の企業はいまだにすごい。ですけれども、それをもって世界に打って出るという攻めの部分がだいぶ弱まりましたね。

田原:そこなんですよ。よく言われているのは「日本は技術は高い、しかし商売がやたらにヘタだ」と。

孫:そうですね。そういう意味で今日は学校の現場の先生方もいっぱい来ていただいた(twitter呼びかけて教育関係者約150人を募集した)。

 教育に関わることなんで・・・。実は今日、田原さんにお見せしたくて、資料を用意したんです。それを先に説明させていただいて。

田原:どうぞ、お願いします。

孫:そこに『IT教育が日本の未来を変える』という、ちょっと大上段に構えたやつを用意しました。僕は一つひとつの電子教科書がどういう機能があるとかないとかそういう話よりは、なぜIT教育が必要なのかという思想の面から今日は資料準備しました。

田原:そこを是非聞きたい。

孫:まずこのページです。いまの日本のいちばんの問題は、国際競争力がほんのこの20年間で、1992年っていったらついこの間・・・。

田原:1位だった。いまは27番目になっちゃった。

孫:1 位だったのが、もう先進国の中で27位ですよ。これはもうどうしようもない状況です。すでに「失われた20年」っていうのがあるわけですけども、ここからまた「失われた20年」を日本は迎えそうだと。そうすると失われた40年、50年になる。日本は二度と立ち上がれない。

田原:決定的落ちこぼれになっちゃうでしょうね。

孫:もう劣等国になる。国全体がまとめて世界から落ちこぼれてしまうという状況ですね。これがGDPですが(下図参照)、ご存じのようにいまから30年、40年したら、世界で8位になる。7位がインドネシアですから。

田原:いまは3位ですね。

東大でマルクス経済学を学ぶのはイヤだった

孫: 今年中国に抜かれて3位。つい今年の頭までは2位だったわけですから。2位という状態が何十年か続いていたわけですね、日本は。ついに何十年ぶりに日本は 2位から転落したと。ここからさらに転落の度合いが早まっていって、いま日本がODAで助けてあげている国から見下ろされるようになる。

 インドネシアにも抜かれる。ロシア、メキシコ、ブラジル、みんな抜かれるという恐ろしい状況がいまやってきそうだということが、ほぼ見えている。

田原:ええ。

孫:そもそもなんでこんなになったんだということです。私が見てるのは、日本は農耕社会だったと、それが幕末、明治維新で工業社会になったと。

田原:ヨーロッパの機械が、工業が入ってきた。

孫:黒船が来て。僕は16歳からアメリカに行ったんですけど、アメリカの高校卒業検定試験というのを受けたんですね。日本では高校1年の3ヶ月しか行ってないから。

田原:脱線しますがそこを聞きたい。なんで日本で高校をまともに行かなくて・・・。普通は高校を卒業してアメリカに行くのは多いんだけども、なんで行っちゃったの?

孫:僕は結構先のことを考えるんですよ。

 高校1年生のときに、一応このまま行けば、真面目に勉強して大学受験が3年後にあるなと。3年後にどこの大学に行きたいかと、自分で自分に問うたら、一応やっぱり東大を目指そうかと。ただ、東大で何学部に行くんだと。経済学部だと。そのときは東大の経済学部で何を教えてるかというとマルクス経済です。

田原:そう、マルクスですね。

孫:「ちょっと待てよ」と。「なんでこの資本主義の日本で・・・」(笑)。

田原:しかもうまくいっている日本で。

孫:そう。「なんで共産主義のマルクス経済を勉強しなきゃいけないんだ」と。かといって、僕なりには東大に行きたいという気持ちがあって、マルクス経済が嫌だからといって他の大学に行きたいという気も当時はなかったわけ。そしたらもう日本の外に出るしか・・・。

田原:他の大学もマルクスですよ。僕は早稲田ですけど、やっぱりマルクスやってましたから。

孫: それは僕に言わせれば、当時の大学の教授を選ぶシステムが間違っている。先輩の教授たちが後輩の教授を決める。で、先輩の教授達がマルクスで習ったから自分の後輩もマルクス経済のやつを教授にしようという、なんか連綿と続いたやつがあった。これ自体がもうおかしいなと僕は思ったんです。そこである意味、マルクス経済に押し込められるのが嫌だった。

 もう一つは『龍馬が行く』を読んで坂本龍馬に憧れて、あんなふうに命懸けて日本を変えたいと思った。彼はアメリカ、ヨーロッパ、海外を見たいと思ったが、でも暗殺されて果たせなかった。じゃ、私は行ってみようかということで行ったんです。

田原:なるほど。
日本の教科書が教えない「南北戦争」

孫:ちょっと脱線しましたけども、アメリカで僕は3週間だけ高校に行って、1年生、2年生、3年生を2週間で、3カ年分飛び級したんです。

田原:アメリカはそんなことできるんですか。

孫: 一応、校長先生に直談判して。最初1年生に入って1週間で2年生に変えてくださいと。3日で2年生はいいから3年生に変えてくれ。で、また3日で3年生はいいから、大学行くから卒業させてくれと。それで卒業検定試験を受けたんです。そのときの試験に出てきた内容が大事で・・・。

田原:何ですか。

孫:「シビルウォー(the Civil War)はだいたい何年頃だったか?」で、ABCと選択があって。答えは「1860年代」ですが、シビルウォーって日本ではそういう単語を聞いたことがなかったんです。

田原:ないですね。

孫:ね、日本の教科書では。考えてみたら日本の学校の教科書でいう「南北戦争」。

田原:あ、アメリカの南北戦争。

孫:南と北が戦いましたね。日本の教科書では・・・。

田原:奴隷制のある南と奴隷制に反対する北が戦った。

孫:そう。しかも日本では奴隷制度があるかないか、黒人差別をするかしないかが南北戦争だとずっと教わってきたけども、アメリカでは奴隷を解放するかしないかの戦争ではなくて、シビルウォーなんですね。

田原:どういうこと? シビルウォーって。

孫:つまり農業社会の枠組みの国家から工業社会の枠組みの国家にパラダイムシフトすると。

田原:そういうことなんですか。

孫:これがシビライゼーション、つまり文明開化。農耕社会から工業社会に切り替わるシビライゼーション、文明国家に変えると。従って国家の憲法、規制、教育、全部を切り替えると。

 農耕社会でよしとした制度で---つまり農耕社会では人手、安い労働者が必要だ。綿を摘むため、麦を植えるための安い労働力を手にするためにアフリカから連れてきて奴隷として使うという、低賃金労働者をいかに集めるかということを南部でやっていた。

 でも北部の方はそうじゃないんだ、工業化社会だと産業革命だと進んでいた。農業を中心としたところに立脚したものではなくて・・・。

田原:頭を使わない労働力はいらない。

孫:そう。頭を使って機械を使って、産業革命が起きた。電気だ、自動車だとね。そういう産業革命に向かうための枠組みが必要だった。従って手作業の労働賃金を安くするための枠組みが重要じゃない。

田原:枠が変わると。

孫:ということがシビルウォーだということを、検定試験の会場で試験の問題を見て試験の最中に僕は初めて認識した。
明治維新の本当の意味とは

田原:今日いらしている多くの方も、南北戦争って奴隷か奴隷じゃないかの戦争だと思ってますよ。

孫:そうそう、日本の学校の教科書ではその程度しか教えてない。でもことの本質は農耕社会から工業社会に変わるという決定的なこと。で、同じ1860年代に明治維新が起きた。明治維新とはなんぞやと。一言でいうとシビルウォーなんです。

田原:ペリーがやって来て、やっと工業っていうのがあると。日本は櫓で、風で船が動いていた。

孫: だから幕末の明治維新というのは最初尊皇攘夷からきて、思想の世界だっていう。しかし、本当の枠組みは農耕社会、つまり農民の上に、マネジメントとしてある意味搾取しているマネージしている武士階級があるという農業に立脚した国家から、工業に立脚した国家に変わるというパラダイムシフトなんですね。アメリカのシビルウォーつまり南北戦争も、日本の幕末の明治維新も実はまったく同じテーマ・・・。

田原:シビルウォーだと。

孫: シビルウォーであり、しかもまったく同じ1860年代に起きた。シビライゼーションをもとに蒸気汽船で世界各国に工業製品を売りに行くと、工業に立脚した船で。だから僕は、人類の20万年の歴史の中で一番大きなパラダイムシフトが、農耕社会から工業社会へのパラダイムシフトだと思っているんですね。

 今まさにわれわれが直面しているのは---一つ目の箱が農耕社会という箱、二つ目の箱が工業社会という箱、今度は三つ目の箱として情報社会がやってくる ---この情報社会という新しい社会の枠組みで、ここに乗り移れるか乗り移れないか、この思想の戦いだと僕は捉えています。
情報社会とは何か?

田原:そこを一番聞きたい。情報社会という言葉はもう山ほどある。ところが情報社会と工業社会はどこが違うのかということ。ここを明確に言う人はいない。

孫:一言でいうと、工業社会は人間の体でいえば筋肉を延長させるものを作っていったということ。

田原:機械だからね。

孫:それは足を延長させる。速く走る車。手の筋肉を延長させるということで、ベルトコンベアとかオートメーション。目を延長させるとテレビ、耳を延長させてラジオ。つまり人間の体でいえば筋肉を延長させるのが工業革命です。

 で、人間の体で言えば頭を延長させるのが情報革命です。人間の体で何が一番大切か。やっぱり筋肉よりはね・・・。筋肉は義手とか義足が付けられます。でも頭を変えちゃったら別人になっちゃいます。

 心臓ですら、いまはペースメーカーや人工心臓も作れる。ということですから、人間の体の中でいちばん大切な、いちばん付加価値の大きい部分といったら頭でしょう。頭をサポートするのが骨であり手足だということだと思うんです。筋肉の革命が産業革命、頭脳の革命が情報革命、情報社会ということだと思いますね。

田原:農業から工業に変わったきっかけが蒸気機関だと言われてるんだけど、工業から情報に変わるきっかけは何ですか。

孫:マイクロコンピュータです。これ以外ないです。要するにマイクロコンピュータで、それが心臓部として計算をし、そして記憶を司るメモリチップに記憶させて、口とか目とか耳に相当するコミュニケーションということで通信。

 情報革命の三大キーテクノロジーといえば、マイクロコンピュータのCPUと記憶のメモリチップと伝達をする通信。この三つの要素で、これが過去30年間で百万倍になったわけです。

田原:百万倍。

孫:百万倍の進化を遂げたんです。次の30年間でもう一回百万倍の進化を遂げるんです。

田原:30年ということは、孫さんがアメリカにいらしてから今までに百万倍。

孫:そうです。僕がソフトバンクを始めてちょうど今年30周年。この30年間で百万倍になったということですね。
筋肉革命から頭脳革命へ

田原:孫さんはなんでコンピュータに目を付けたんですか。あるいはソフトですね。前にお話ししたとき、なんか写真を見たとか。

孫:はい。

田原:指の上になんか載っていたと。

孫: マイクロコンピュータのチップの拡大写真をサイエンスマガジンで見たんですね。これなんの写真だろうと思ったんです。未来都市のような地図のような。で、次のページをめくったら、指の上のこのチップが載っていて、これがマイクロコンピュータだと生まれて初めて知ったんです。

田原:で、たぶん同じ写真を、あるいは同じものを見たであろう、ビル・ゲイツがいると、スティーブ・ジョブスがいると。

孫:そうです、そうです。サン・マイクロシステムズのスコット・マクネリであり、彼とサン・マイクロを一緒に始めたエリック・シュミット。シュミットがグーグルのいまのCEOですね。実はみんな同じ歳なんです。

田原:同じ年、ほう。

孫:全員。ビル・ゲイツも、スコット・マクネリも、スティーブ・ジョブスも、エリック・シュミットも。日本でいえばアスキーの西和彦さん。全員同じ歳なんです。で、実は僕は二つだけ若いんですけど、僕は2年早く大学に入った、飛び級で。

田原:アメリカに行ったから飛び級で。

孫:僕が大学1年生の時に、彼ら全員大学1年生。同じ大学1年生の時に、みんなマイクロコンピュータを見て衝撃を受けて。つまりわれわれの世代にとっての黒船を見た。

田原:それがつまり情報社会の第一世代なんだ。

孫:全員同じ年。つまり龍馬とか、勝海舟、高杉晋作とか、みんな黒船を見て衝撃を受けたわけですね。あの人たちが黒船を見てガーンと衝撃を受けたように、われわれはマイクロコンピュータのチップを見てガーンと衝撃を受けて、僕は涙を流した。

田原:そして情報社会に入ってきた。

孫: そうです。筋肉革命から頭脳革命つまり情報革命です。この情報化社会を迎えるに当たって、さて日本はどうするんだと。このパラダイムシフトをどう迎えるかで、日本がこれから50年100年、世界の落ちこぼれになるのか、それとももう一度競争力を取り戻せるのか、大きな分かれ目です。ところが、これは話をしても分からん人がいるわけですよ

田原 一つ素朴な質問をしたい。パソコンの基本ソフトを作ったのも、iPhoneやiPadも全部アメリカでしょ。なんで日本ではできないんですか。

孫 マイクロコンピュータが生まれたのがアメリカで、シリコンバレーですよね。シリコンバレーでスタンフォード大学を中心に、その周りにインテルだ、フェアチャイルドだと、全部集まっている。メッカに近ければ近いほど、距離の二乗倍に反比例して影響は大きい。一番メッカに近いところで激しい革命が起きている。だから絵描きがパリに行くように、メッカに世界中から強者が集まるわけですよ。

田原 そう言えばグーグルもスタンフォードですね。

孫 そうです。グーグルの創業者もスタンフォード、ヤフーの創業者もスタンフォード。僕は隣のバークレーでしたけれども、学生時代からスタンフォードと車でしょっちゅう行き来して、友達はみんなあのへん仲間内ですからね。そういう持代の風を感じてたわけですね。

田原 日本は逆ですよね。日本はそれどころかやや落ちこぼれてる。これから落ちこぼれないためには、さあどうする。

孫 そう。日本は農耕社会から工業社会にいくとき、明治5年に義務教育を作りました。では工業社会が終わったとき、どういう教育をするかです。「ものづくり日本」と経団連の経営者の方々からそういう質問は出てくる。それで話すとはすぐいうんですけど、ものづくりを組立業と捉えている経営者が未だに多い。

田原 ようするに日本では組立業が中心なんです。トヨタにしても、パナソニックにしても、全部、組立屋なんです。

孫 組立業にノスタルジアを感じたり、そこに仏と魂があると思っている。そんなうちは日本はもう復活できない。

田原 まだ経団連は思っている。

孫 これでは復活できない。なぜ組立業では復活できないとかというと、組み立ての労働賃金が、いまだ農民の奴隷解放以前の世界にある国と比べると、十倍なわけですよ。月収に十倍の競争力の差がある。昔でいう奴隷と同じような扱いを受けている人たちが安い賃金でつくる農作物のほうが価格競争力がある。同じように組立業も安い賃金で組み立てられたら競争に負けるわけです。

田原 日本は他の国の十倍も高い。

孫 高くて競争はできないですね、単に組み立てということでいくならば。

田原 だからみんな工場が中国やアジアへ行ってますね、安いところへ。

孫 安い賃金に立脚する組立業に頼るのはもう無理。日本は1980年代以前はまだ賃金が安かった。そのときの勢いを使って、頭脳も使って電子立国した。80 年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だと。これからは組み立てに頼るのではなくて、もっと頭を使ってIT立国だと。

田原 それはどういう意味ですか、IT立国とは。

孫 要するにマイクロコンピュータを最大限に活用する。コンピュータの情報革命を最大限に活用して、頭を使って頭の革命で日本の競争力を取り戻すと。

田原 なんとなく分かるんだけど、もうちょっと具体的に。頭を使ってどうするの。

孫 同じものづくりでも、組立業から脱却したアップルの例があります。スティーブ・ジョブスが一回追い出されて、アップルは倒産寸前までいった。そしてジョブズが呼び戻されて倒産寸前のアップルが甦った。何をしたか? ジョブスが真っ先にやったのは、俺は組立業ではないという・・・。

田原 そういう宣言をした?

孫 宣言をして、真っ先に工場を全部売っ払った。アップルは今でも売上げの8割以上がハードの売上げなんですよ。80数%がハードの売上げというものづくりのアップルが、ものづくりの基本である工場を全部売っ払った。そしてスティーブ・ジョブスが宣言したのは、「俺は頭で勝負する、イノベーションだ」と。

 つまり新しい開発、設計です。ハードの設計、ソフトの設計、デザイン、頭を作ったマーケティングでありブランディングだということで、一番付加価値の高いイノベーション、開発ですね、「そこにのみ俺は集中する。俺の社員に賃金の低い、付加価値の低い組み立てなんかさせない」と。

田原 筋肉屋さんはいらないと。

孫 頭だけで勝負するということで、筋肉労働の工場は全部売っ払って、下請けとして台湾のフォックスコンに発注したわけですね。iPodもiPhoneもマッキントッシュもみんな台湾の会社に下請けに出している。

田原 あ、台湾で作っているんですか。

孫 ただし台湾のフォックスコンはさらに賃金を安くするために、工場を中国に移して社員を80万人雇ってやっているんですね。つまり賃金がいちばん低くて使える中国の工場で、台湾の人がマネージして、そしてアップルが設計して世界中に売っていると。

田原 そういえば、遅まきながらIBMもハードの工場は中国に売っちゃいましたね。

孫 要するにものづくりといっても全然違う。組み立てに頭がいく目がいく、組み立て工場に俺の仏と魂があるなんていってる間は、経営者として失格だと。

田原 日本のほとんどの経営者は未だに組み立てだといっている。どうすればいい?

孫 頭を切り換えてもらうしかない。

田原 どう切り替える、具体的には?

孫 ある意味、負けるしかないじゃないですか。

田原 これは後でカットしてもらってもいい。例えばトヨタはどうすればいい?

孫 カットっていっても、これは生放送で流れているんです(笑)。※対談はUstで中継していました。

田原 では、自動車メーカーはどうすればいい?

孫 自動車メーカーはやっぱりアップルのように世界最強の、例えば電気自動車なんかの設計をするしかない。エコカーのようにインテリジェンスを持たせたものを設計して、組み立ては海外でやればいい。そうしたら為替も関係ない。為替を言い訳に政府に泣きつくとか、そんな恥ずかしいことをしなくてすむ。

田原 むしろ海外で作って日本へ輸出すればいい、円高を利用して。

孫 海外に工場が行くことを悲しいと捉えるか、うれしいと捉えるか。「無理矢理強制されて海外に工場を移した」と泣きながら言うか、アップルのスティーブ・ジョブスのように自らの意志で、「俺の社員に賃金の低い組み立てなんかさせないんだ、俺の社員には一人当たりの賃金をもっとダーンと上げて、一人ひとりに喜んでもらうやり甲斐のある、エキサイティングな開発だ、デザインだ。それを本業として捉えるんだ」となると、明るい自動車メーカーになれるわけですよ。
なぜアップルは儲かるのか

田原 ものづくりものづくりと、いつまでもいっている。これはやっぱり教育に問題があると思う。そこを聞きたい。

孫 そうです。アップルは約30%の利益率、未だに組み立てに立脚している日本のメーカーは3%くらい。つまりイノベーションが、ちと足らんということです。

田原 桁が違うわけね、まったく。

孫 十倍違う。日本の復活のためには、日本人全体のなかで国民の総人事異動をしなきゃいけないと僕は思うんです。つまり組み立てに立脚する労働者を育てるための教育ではなく、あるいは農業、漁業を中心としたところを育てるためでもいいと思う。製造業に重点を置きすぎた教育ではなくて、頭の勝負をするところに教育のコンテンツをシフトしなきゃいけない。

田原 そこに日本の教育の問題がある。いまの日本の教育は頭を使っちゃダメだっていう教育です。

孫 そこが問題なんです。

田原 よく言うんですが、小学校から高校までいろんな教育は全部正解のある問題を解く。

孫 丸暗記でしょう。公式を丸暗記させる、歴史の年代を丸暗記する。僕は学生の時に歴史、大っ嫌いでしたもの。なんでイイクニつくろう鎌倉幕府、とかなんかいろいろ語呂合わせで覚えなきゃいけないんだと。

 1192年ってなんだったっけと、そんなのを語呂合わせで覚えるよりは『龍馬伝』とか見たら、興奮して歴史はおもしろい。

 つまり興奮と感動を覚えるような、なぜ、なにが起きたんだと、どうしてだと、それで世の中どう変わったんだと、そういう歴史の必然だとか、そういうことを学ぶともう興奮の極致ですよね。

 ところが丸暗記型で、例えば1192年じゃなくて1191年と書いたらなにが悪いんだと。たった1年くらい誤差やんけと。

会場 (笑)

孫 たった1年の誤差でバツと。100年ずれてもバツ、1年間違ってもバツ。僕に言わせれば「1年違いは誤差だ。ほぼマルやんか」と。

田原 誤差を認めない、もっと言えば正解以外は全部バツなんです。

孫 それがおかしいと思うんです。教育革命の思想の革命ということで言えば、福沢諭吉だなんだで、明治5年に日本で初めて憲法で義務教育ができました。その義務教育のこころはなにかというと先程のパラダイムシフトですから、農耕社会の江戸時代に教えた教育コンテンツと、幕末を過ぎて明治維新以降の義務教育の教育コンテンツは決定的に変わったと。

田原 どこが違うの?

孫 つまり産業革命のために物理、化学、数学、英語、こういういわゆるロジックの世界、産業革命をサポートする教育コンテンツに変わった。

 それまでは儒教とか漢文とか朱子学とか、なんか農耕社会の武家の人たちに教える、あるいは農業に対して教える、そういうコンテンツですから、教育コンテンツが決定的パラダイムシフトが起きた。

 同じように今度は二番目の箱から三番目の箱、頭脳革命だと情報革命だと。この情報革命にあった教育コンテンツに決定的パラダイムシフトしなきゃいけない。だから教え方の道具が大切なんじゃなくて、なにを教えるかというその中身が大切だと。
『白熱教室』はなぜ受けたのか

田原 ちょっと前にNHKの『ハーバード白熱教室』のマイケル・サンデル(ハーバード大学教授)さんが本を出してベストセラーになっている。

孫 『これからの「正義」の話をしよう』っていう本ね。

田原 あれは正解のない問題を出して、みんなが討論すると。

孫 『これからの「正義」の話をしよう』って本屋さんで見たら、『これからの「マサヨシ」の話をしよう』って、僕のことかって思った(笑)。

会場 (笑)

田原 なるほど(笑)。

孫 勘違いしてドキッとしたんですけども・・・。まさに正解のない問題を討論する。あらゆる情報を調べて検索をして——それはデータですよね——そのデータを使って知恵で考える、議論をする、討論する。まさに哲学の世界であり、問題解決、こういうとこをやっていかなきゃいけないと思うんですよ。

田原 最後は問題解決から問題提起へ。

孫 そうですそうです。その意味で、頭の革命の情報通信の世界、IT革命の世界。ところがさっき言ったように国民の総人事異動という意味では、この頭の革命の情報通信産業は日本の労働人口分配率でいくと3%しか働いてない。

田原 3%。まだみんな筋肉やっているんだ。

孫 残り97%は基本筋肉労働をやっている。ここが問題なんですよ。

田原 ちなみにアメリカとどのくらい違いますか。

孫 3%がおそらく10%は超えている。でも他の産業もITを使いまくっている。製造業でもITを使いまくっている、流通でもサービス業でもITをもっと使いまくった形で生産性を上げているということなんですね。ですから3%の労働人口分配率ではなくて、これが30%くらいにはならなきゃいけない。

 日本のGDPのなかで農業と漁業が占めいている割合は2%です。その2%のGDPのために、全国民に義務教育としてタンポポの葉っぱの形とか根の形とか米の胚芽の形とか、僕が小学生の時から何回も丸暗記させられた気がするんだけど、それってGDPでは2%なんです。だけどこれから日本の頭脳革命をやっていかなきゃいけないところについてはほとんど知られていない。

田原 一番問題は、今企業のオフィスでパソコン使っていないところはないですよ。ほとんど全員使ってますよ。ところが教育の現場にないんですよ

孫 そこなんですよ。社会に出て使うものを教育の現場ではそこに力点を置いてない。そこが問題なんです。
「この問題は韓国でどう思っているのかがわかるんです」

田原 そこを聞きたい。教育の現場で例えば一人一台パソコンを使いますね、どう変わると?

孫 僕はパソコン以上にいかなきゃいけないと思っているんですよ。つまり電子教科書パッドになるべきだと思うんですけども。

田原 電子教科書っていうのは、孫さんのイメージはノートパソコンみたいなもの?

孫 違います。イメージは、僕はいまiPadを毎日使ってますけども、田原さんも使ってますよね、iPadのこういうやつが電子教科書代わりになっていると。 iPadとは限りませんよ、アンドロイドパッドでもなんでもいいんですよ。要はパソコンをもっと進化させたやつ、これにいってみれば10億ページくらいの教科書が入る。

田原 いくらでも情報が入る。

孫 無限大に入る。しかもそれが「教育クラウド」に繋がっていて、世界中の教育コンテンツが入っている。

田原 たとえばこれを教育の現場に入れると、どんなことができますか。

孫 今までなら歴史だって絵が動かない。僕が大好きな幕末のことも文字でチョコチョコッと書いてある。全然感動しない、興奮しない。ところが電子教科書なら、例えば吉田松陰と書いてあってそこにアンダーラインが引いてある。

 そこをタッチすると吉田松陰の写真がパッと出てきて、吉田松陰を題材にしたNHKのドラマのシーンが、吉田松陰が船に乗り込もうとして失敗して死刑になった、そのへんのくだりが動画で出てくると。そうすると生徒の注目度合いはオーと。感動とか関心が記憶にそのままボーンといきますから。

田原 言葉の問題もあるかもしれないけども、たとえば「この問題を韓国の生徒はどう思っているだろうか」と、これできますね。

孫 できますできます。電子教科書だったら当然通信で繋がっているから、韓国の子どもたちと英語で、「日本では幕末こうだったが韓国ではどうだったの? 韓国における産業革命はいつで、なぜ、誰がどうリードしたの? 中国ではどうなの? 清が外国に支配されたことは教科書ではどう習ったの?」と。こういう会話が・・・。

田原 アヘン戦争で香港がイギリスに占領された。

孫 あのことを中国の学生たちはどう受け止めているのという会話ができるんです。
会話がなくなるんじゃないですか

田原 そこがね、僕は一番難しいところで、長所はいっぱいあるんだけど自分で全部できちゃうから、逆に会話がなくなるんじゃないかという気がする。

孫 それは逆ですよ。あらゆる情報があれば、それを人と語ってみたくなる。丸暗記するくらいなら検索したほうが早いわけですから。

田原 検索が自分でできちゃうと・・・。

孫 丸暗記に使っていた頭の労力を、丸暗記の代わりにそんな程度のことは検索して、それをベースにどう思うんだという会話で・・・。

田原 そういうことが自分でできたら教師っていらなくなるんじゃないの。

孫 いやいやいや、教師はそもそもなにをするかということですけども・・・。

田原 そこが問題。

孫 教師は「じゃ、産業革命についてどう思うんだ」という言葉を語りかけて、生徒が答えたら、別の生徒に「君はどう思うんだ」と、教室の中で議論を巻き起こすコーディネータであり・・・。

田原 でも、議論を巻き起こすにはよっぽど知ってなきゃ議論できない。

孫 だから先生は賢くなきゃいけないし、先生の先生たる所以がそこにあると。だって先生は毎年6年生を教えられるわけでしょ。

田原 「でもしか教師」っているじゃないですか。教師でもやるか、教師しかないっていう。

孫 でもね、それは先生方もやっぱり自らを新しい時代に向けて、やっぱりレベルアップをしていただくべきだと思うんですよ。それは産業界だって激しい戦いを毎年、新しい開発をして、新しい技を毎年覚えていっているわけですから。

 先生方だった少なくとも3年に1回くらい同じ6年生を授業で持てるとかあるわけじゃないですか。せめて2回目回ってきたときの6年生担任、3回目の6年生担任だと、そのときに常に新しい情報と武器を使ってその生徒と語り合う、まさにさっきのサンデル教授のようにディスカッションのコーディネータだと。

田原 ところがあんまりディスカッションやってる学校ないんですよ。

孫 工業社会の時の教育は丸暗記でよかったんです、かなりの部分が。つまり見様見真似で、アメリカがすでに先進国としていっぱい作っていた。それを真似して安く作る、真似して丁寧に作る、壊れなく作るという程度でいいから、真似するために暗記のほうが早いと。いろいろ逆らうよりも暗記して丁寧に作るほうが早いと。まなぶ=まねぶ、それをベースに行ったほうが近道だと、効率がいいという時代があった。
「正解至上主義」は教師の手抜き

田原 日本は長い間戦争をやっていたんで、アメリカやヨーロッパの情報が入ってこなかった。非常に遅れていた。だから戦後長い間は真似してればよかったです。

孫 そうです。真似してキャッチアップすればすんだと。明治維新の直後もそうです。真似してキャッチアップするのは日本は結構得意なんですけども、新しい議論をして新しいイノベーションするのは、むしろアメリカ人のほうが得意で。僕は16歳からアメリカに行ってるから、アメリカの学校の教育ってすごい体験していて感動したんですけども・・・。

田原 どこが違うの、日本と。

孫 だいたい大学の試験でも教科書全部持ち込みOKです。毎回どの試験を受けても分厚い教科書を持てるだけ持っていってブアーッと見ながらそれで問題を解く。

田原 でも教科書に答えがあるような問題はないでしょう?

孫 教科書に書いてある答えをそのまま書き写せばいいなんていう丸暗記の問題が、そもそもほとんどない。ここに書いてあることをベースに自分が新しい提案をする、新しい問題解決をする、知恵で出す。

田原 そんなの採点もたいへんじゃないですか。

孫 だから先生は主観を持ってガンガン点を付けるんだけども、やっぱりそこはそれで慣れてくると・・・。

田原 日本の正解主義ってのは先生がラクなんですよ。

孫 考えなくていいから。

田原 大学の試験だって答えが三つか四つ出て、その中のひとつにマルしろと。

孫 それは考えなくていいから機械的にマル付けるでしょ。機械的にマル付けるくらいならなんで電子教科書でやれないのと。それならむしろ機械にやらしたほうが、生徒に対してコラーッとか嫌味をいわなくて、生徒だっていわれる度にやる気を失って、そんなふうにならないでいいわけですよ。

 反復学習はむしろ機械にやらせて、反復学習じゃなくて知恵を出させる、討論する、問題提起するというようなことを、人間が人間たる所以で人間の先生がガイドしていくというのがあるべき姿だと思いますね。

田原 出版社の連中が孫さんを非常に怖がっているんですよ。「電子教科書になったら紙の教科書がなくなっちゃうんじゃないか」と。つまり「教科書を作る出版社がなくなっちゃうんじゃないか」と。

孫 彼らも頭をシフトしなくきゃいけないと思うんですよ。つまり農耕社会から工業社会にシフトしたように、今度は工業社会から情報社会にシフトするでしょ。そのときに本来は情報社会をいちばんリードすべきインテリゲンチャが彼らなんですよね。

田原 本当はね。

孫 常に人々に情報を上から下に流す、つまりちょっとだけ知識が上の人が本来多いんですよ、マスメディアの世界にはね。

田原 三歩先とはいわないけど、少なくとも半歩先くらいは行っている。

孫 半歩くらいは賢い人が一般的には多い世界なんですよ、読んで学習して。その人たちが自分の知恵とか知識のレベルアップを放棄して印刷業に徹してどうするの。

田原 あ、印刷業ね。

孫 さっきのものづくりと同じですよ。ものづくりも組立業に付加価値があるんじゃない。イノベーションに価値がある。同じく出版社も印刷業に価値があるんじゃない。企画編集ですよ。どういう特集をするんだと、なんのテーマについて知識人を集めてきて討論させて、まさにこうして討論している状態を電子パブリッシングする。

 そこにユーストリームだとか、ニコニコ動画をはり付けてる。それで電子パブリッシングすると。紙代印刷代がないから、本来500円で売っていたものが50円で売れる。それでも利益は今までより増えると、こうできるわけですよ。

田原 出版社にいる社員はどうしたらいい?

孫 頭を切り換えればいいだけですよ。先生がレベルアップしなきゃいけないように、新しい時代に向けて頭をもう一回レベルアップしなきゃいけない。そのために、出版社の人々ももう一回頭を情報革命にあわせてレベルアップする。産業界はそれを毎年やっているわけですから。

田原 2010年はメディアにとって大きな転機だと思います。尖閣沖で中国の漁船が日本の巡視船に衝突した。その映像を海上保安庁の保安官がユーチューブに流した。これまでならばテレビ局に持って行っていた。あるいは小沢一郎さんが国会に出ないというのをニコニコ動画で会見した。するとテレビや新聞がネットの情報を後から追っかけている。時代が変わったなと思う。

孫 変わりました。今まではテクノロジーの制限があったわけですよ。地上波のテレビ局に当てはめられた電波が数百メガヘルツ、その電波の幅の中で局ごとに割り当てて放送していた。だから一地域で放映できるチャネルの枠は8チャンネルとか10チャンネルしかない。ところがインターネットは無限大で、双方向で無限大の動画、無限大のチャネルが作れるわけですね。

田原 孫さんは百もご承知のように、たとえばテレビ局と携帯を比べると、国に支払っている電波料は、携帯のほうがはるかに高いカネを納めている。

孫 テレビが一番いい電波帯を占拠していますね。もうちょっとテレビが遠慮してくれるといいんだけれど。
長妻厚生労働大臣がクビになった理由

田原 新しく総務大臣になった人は、「それ(電波帯の再編)をやる」って言う。ところが途中で全部腰砕けになる。なんで?

孫 いろんなしがらみがあるわけですよ。例えばパーソナル無線、いわゆるアマチュア無線はたった2万人しか使ってない。ここで携帯電話なら2000万人が活用できるくらいの電波の幅をたった2万人で占拠しているんですね。それからタクシー無線。これまた携帯電話なら2000万人分投入できる、一番通りのいい 800メガヘルツ帯の電波にもタクシー無線が居座っている。

田原 独占して。

孫 何台のタクシーが使っているかと言えば、町ごとにほんの数千台、東京でも数万台。それが2000万人分の電波のところに居座っている。立ち退いてくれるのなら、タクシーの無線台数くらい、うちのiPhoneタダであげまっせと。タダ友で無料通話でいくらでも配車してくださいと。

会場 (爆笑)

孫 タクシー数万台分、タダでiPhoneを差し上げても、そこに2000万人、3000万人のiPhoneユーザーを載せ替えられるなら、みんな得するんですよ。

 タクシーの会社にはタダで上げますから損するもなにもない。だけどそこには監督官庁である総務省の・・・、今日は生放送だからもう消せないけど。

会場 (爆笑)

田原 天下りがいるんだ。

孫 天下りがドサーッといるんです。もう何十年間も居座っているんです。で、先輩でしょ、簡単に外せないんです。理事長、理事、ズラッと全部天下り。全部総務省ですよ。これは許せんと。思いませんか。

田原 僕は、新しい総務大臣が登場する度にそれを言うわけ。テレビが独占している、おかしいじゃないかと。最初は向こうもいうと頑張っているんだけど、途中で腰砕け。

孫 大臣も本来は志の高い人たちですから、そういう気持ちはあるわけですよ。だけどいざ詳細の具体論になるとやはり役人はそこに何十年といますから、より詳しいわけですよね。

 その詳しい彼らが、「さはさりながら」と言って分厚い報告書、しかも御用学者かなにかがまとめて持ってくると「あちゃー」と。この知恵と知識で防戦されるとなかなか改革できない。

田原 長妻(昭・衆議院議員)という男がいて厚生労働大臣をやってた。彼は今度外されたんだけど、彼が何度も僕に愚痴をこぼしてた。厚生労働省の改革をやろうとする、「やる」というと、ハイっていうんだって。ところがなんにもしない。「ヤツらは敵なんだ」って言っていた。ついに彼は敵に負けちゃったわけだよ。

孫 会社にもいますよ、ハイっていってなかなか動かないと。

田原 ソフトバンクにいますか。

孫 たまにいますよ。でも僕は許さないから。ハイっていって動かないとチェックして、「なんで動いてないんだ」と。
和をもって尊しとする経営者ではダメ

田原 日本の国際競争力がナンバーワンから27位に落ちた。一人当たりのGDPも2000年には3位だったが、いま23位に落ちた。ドーンと落ちている。やっぱり僕は大企業の経営者に問題ありだと思う。

孫 あります。オールサラリーマン化しちゃってるわけですよ。

田原 そうなんです。つまり新入社員がどんどん歳とるか、歳とった単なるサラリーマンが経営者になってる。

孫 そうです。立派な真面目な人たちですからケンカしないわけです。嫌われることいわない。ガーンと机を叩かない。事勿れ主義で前歴主義で、みんなの和をもって尊しとする。和を尊しの人だから御輿の上には乗りやすい。だけど大きな改革はできない。それは大臣だって大企業の社長だって役人だって、みんな事勿れ主義でなんとはなしにホワーッといっちゃう。

田原 会議ばっかりやって、何十回会議やっても変わらない。

孫 腹を括って決断をするのがリーダーシップだと思いますよ。

田原 でもそういう連中から言わせると、孫さんは独裁だという。

孫 いやいやいや(笑)。会社の中では結構議論してるんですよ。

田原 孫さんの凄いところは、ユニクロの柳井(正)さんも似てるんだけど、決定が早いですね。

孫 早いですね。

田原 孫さんは前の晩に役員に電話すると。こういうことをやりたいと思うと。で、調べろと。明日の夜会議で決めちゃうと。そうでしょ?

孫 それもありますし、そもそも事前の根回しなんてほとんどなしでその場の会議で突然ガーッとお互い議論をして、それでバンバン決めていきますから。

田原 その決定が抜群に速いわけよ。

孫 早いですね。だっていいことはためらう必要ないじゃないですか。いいことなのに先送りする必要はないじゃないですか。

 われわれインターネットの世界では、日本流は許されないんですよ。アメリカが来る中国が来るヨーロッパが来る。

 彼らはそれこそクラウドですから、サーバーが空の雲の上にあって国境を越えてバンバン来るわけです。日本流の和をもって尊しなんて言っている間に全部占領されますから、やっぱり世界スピードのレベルでやらないといけない。だから日本では変わってるけども、シリコンバレーでいうと同じペースなんです。
電子教科書で教育をどう変える?

田原 話を教育に戻しますと、日本の教育ってやっぱりヘンな教育で、競争はよくないと言ってるわけね。

孫 そうそう。これは問題ですよ。

田原 でも競争が必要だから、みんな学習塾に行くわけ。本当は学校の教育がよければ塾なんて行かなくていいんですよ。

孫 仰るとおり、仰るとおり。今日先生方いっぱい来てますけどね。あとで本音をガンガン言いたいと思いますけど、もう少し資料がありますからさっといいですか。

田原 どうぞ。

孫 ということで、デジタル教科書、電子教科書、やるかやらないか。フィンランドは2007年に決めました。韓国も来年から全部電子教科書になります。フランスも来年からやると先月決めました。

 シンガポールも再来年、アメリカですら2015年です。日本は2020年です。また失われた・・・。


田原 だけど原口(一博・前総務相)さんは2015年に(電子教科書化を)すべきだと言っていたいましたよね。

孫 そう。原口さんは2015年にすべきだと言っておられるし、光の道も2015年だと。だけど今の政府決定は2020年。その正式決定の2020年もウヤムヤにしようという抵抗勢力が文科省のなかにズラーッといる。

田原 じゃあ原口さんは2015年と言うからクビになっちゃったんだ。

孫 ハハ・・・。分かりませんけども、とにかくいったん政府で方針として2020年には電子教科書にしましょうと決めている。それですら僕は遅すぎると思っている。世界からまた「失われた10年」になるにもかかわらず、その2020年ですら、後ろ送りにしよう、全部骨抜きにしようと・・・。

田原 誰がそんなことをやっているの?

孫 ヌエのような存在でね、誰かってう名前が出てこない。全員でモワ~とボイコットしている。

田原 モワ~っと?

孫 モワ~っと。それでこの間、僕は文科省に呼ばれて行ってきたんです。「電子教科書について聞かせよ」と呼ばれたから行ってきた。で、口から泡飛ばして「やるべきだ!」ってワーっと言った。そうしたらね、目が死んでいましたよ。

会場 (爆笑)

田原 聞いていないわけね。

孫 呼んでおいてね、その死んだ目はなんだと。僕が先生でお前らが生徒なら、お前らどやしつけるぞと。呼んでおいて、なんか眠たそうな顔をして聞いておる。
揚げ足取りしかしない予算委員会

田原 いや、呼ばなきゃいけないということはあって、格好だけ呼ぶんだけど、一切無視したいんだ。

孫 要するに「反対」も言わないんです。「賛成」も言わない。それでなにか、逸れたような質疑応答をモワ~っとする。なんでそんな重箱のすみっこを聞くの? 中心を聞くのならまだ分かるよと。重箱のすみっこを聞いてどうするの、と。

田原 それはね、今の国会が同じ。

孫 そうですよね。

田原 予算委員会ですよ。でこの予算が借金がいっぱいあるわけですよ。借金を減らすのか、それとも景気をよくするのか、誰もそんなことを言わない。

孫 そうそうそうそう。

田原 重箱のすみばっかり。

孫 重箱のすみっこの失言癖ばっかりでしょう。これじゃあね、日本の天下国家はマズイですよ、マズイ。

 だから僕は今日は、田原さんも「電子教科書反対!」なんて明確に言っているちゅう本(『緊急提言! デジタル教育は日本を滅ぼす』)があったから・・・。

田原 僕、会員になったんですよ。会員(編集部註・「デジタル教科書教材協議会」のアドバイザー)になった。

孫 ああ、会員になった。

田原 だけど僕は、今の教育は大いに問題だと。

孫 そうそう。

田原 やっぱりね、電子教科書をやっても教育を直さなきゃダメだって言っています。

孫 そう、おっしゃる通り。それは両方なんです。教育の中身も直さなきゃいけないし、道具としての電子教科書も用意しなきゃいけないし。そもそも一番大切なのは何を教えるかというコンテンツ。それが、工業社会の時代のコンテンツをいつまでも教えているようじゃダメだと。

田原 それは分かる。「電子教科書が便利だ」っていう話はいっぱいあるんだけれど、「それで教育をどう変えるんだ」っていう話がない。そこなんですよ、孫さんとやりたかったのは。

孫 それを今日、僕は用意しましたからやりますよ。

 で、とにかくまず、急がないかんということを一つのメッセージとして受けていただきたい。

田原 でも「急ぐ」という総務大臣がクビになった。

孫 そう。それでも、現職の大臣も必ず理解いただけると信じている。

田原 理解したらクビになる。

会場 (爆笑)

孫 ハハハ。政権も総理も一年ごとに替わるし、大変ですよね、もう。日本の国はもうマズイ。だからとにかく早めなきゃいけないというメッセージをまず皆さんにも受けていただきたい。

 で、何を教えるか。今10歳の子供たちは30年後には40歳ですから。30年後の40歳、社会人で言えば一番働き盛りの40歳。今40歳の人たちが30年前に何を学校で教育受けたか。これが日本の国際競争力にモロ影響を与えている。
絶対に責任をとらない文科省

田原 実はある予備校の先生に聞いたの。「なんでみんな予備校に行くんだ」と。「学校の教師がダメだから行くのか」と言ったら、「そうでもない」と。

 つまりね、学校の教師はね、算数だの問題を解くことしか教えない。算数がいかに面白い教科か、理科がいかに面白いか、これをまったく教えない。

孫 そうそう。それとね、塾はいい中学、いい高校、いい大学の受験を通らすという明確な目的を持っているから、生徒同士の過酷な競争状態に持って行って、試験をしょっちゅうやって、成績順に席順を並べてみたり張り出したり、いろんなことをやっている。かつての日本が競争に燃えていた時代には、廊下に張り出すなんて当たり前だった。

田原 当たり前。

孫 塾では今でも張り出している。だけど学校では、順番に張り出すと、PTAから怒られる。それで文科省の偉い人からも「そうするな」って言われているような言われていないような感じがある。"ゆとり"のなんとか、「競争はよくない」とか・・・。

田原 ゆとりもね、また文科省がどうしようもない。僕は取材したの。すると文科省が全部先生のせいにする。ゆとりの教育がなんで失敗したか。「教師が悪いんだ」と。総合的学習の時間なんてね、「生徒の主体性を高めるためにやったら教師がついていけないからムチャクチャになっちゃった」と。文科省は「自分の責任だ」とは絶対に言わない。

孫 会社でもね、「敗軍の将兵を語る」というか、ダメになった会社の社長で「自分の部下がバカだから」とすぐにいう人がいるじゃないですか。これは最悪ですよ、大将としては。そう思いませんか。

 僕は自分の部下をもうスゴイと思っているんですよ、本当に。最近も感動しまくっているんですけどね。

田原 それは何よりも、部下が孫さんを信頼している。
スターウォーズのごとく

孫 いやいや、信頼している部分もあると思うし、「社長が頼りないから頑張んなきゃ」と思っているところもあるかもしれない。とにかくそういうことで、教育の精神論もありますけども、教育の中身を情報化社会、情報革命に向けたものをやらなきゃいけない。

 じゃあそのIT教育って何ですかって言うと、今ある紙の教科書を単に電子に置き換えましたというだけではダメだと。そうではなくて、IT立国 ---電子立国からIT立国---に向けた教育の変革だということで、さっきも言ったように30年間で100万倍になったわけです。今からものすごいイノベーションが起きる。

 だから今あるものを、『スター・ウォーズ』---先生方、『スター・ウォーズ』って観ましたか? 『スター・ウォーズ』でヨーダが宙に浮いて、それで闘うジェダイに訓練をするときに、「目に見えるものを相手に闘ってはいけない。目に見えないフォース(未来を予知する力、他人の心を操る力)に聞け」と。「目に見えた剣を追ってそれをよけるのではなく、これから剣がどこに来るのだろうというフォースを読め、先を読め」と言っている。

 だから今のiPadだiPhoneだを見て、あるいはパソコンを見て、「あ、これをやればいいのか」っていう程度ではダメですよ。30年後に、今の10歳の子供たちが40歳になる。そのときに彼らが、自分が10歳のときに教えてくれたあの恩師の先生の顔を思い浮かべて感謝をする。

田原 感謝しないね、今。

孫 「あの先生が、僕が10歳のときにあのことを言ってくれた。あれを見せてくれた。あのことを語りかけてくれた。だから今の40歳の私がある」。そうやって、今ある目に見えるモノを語るのではなく、今まだ目に見えない30年後の進化を予見して、「30年後の世界にこうなりますよ、それに対してのことを今学ぼうよ、準備しよう」と。

田原: ずっと以前に孫さんにお会いしたときに、あなたが非常に重大なことをおっしゃった。私はそれが焼き付いているんです。

孫: 何ですか?

田原: 2018年頃にはコンピュータ・チップの容量が人間の脳細胞の容量を超える、とおっしゃってました。

孫: さすが! まさに2018年、そう言っています。よく覚えておられましたね。

田原: 今までは人間が問題を出してコンピュータに解かせてきた。ところが将来はコンピュータが自ら問題を出せるようになる。そうなると世の中は根底から変わるとおっしゃた。

孫: ええ。変わるんです。

田原: 具体的にはどう変わるのですか。

孫:  人間の脳は、脳細胞の中にあるシナプスが「くっついた」「離れた」の二進法で動いている。みなさんが今この話を聞いて、「すごいな」とか「バカ言ってるな」とかいろいろ思っておられるのも、すべて二進法で考えているわけですね。つまり脳細胞のくっついた、離れたの組み合わせで、すべてを記憶したり考えたりしている。この数が300億個あるわけです、人間の頭の中に。

 コンピュータのチップに入るトランジスタ、これも二進法です。人間の頭の二進法と同じトランジスタ、これが300億個を超えるのはいつか、ということを20年前に僕が推論で計算した。そうしたら2018年だという答えが出たんです。

 で2年前にもう1回検算した。やっぱり2018年だった。つまりその後の20年間の進化はやっぱり予想した通りだったということですね。

 2018年に人間の脳細胞に追いつき、じゃあ、そのあとどうなるか。そこから30年間で人間の脳細胞の100万倍になるんです。

田原: じゃあ人間、いらなくなるじゃないですか。

孫: いらなくはならないんだけれど、いわゆる丸暗記というのになんの意味があるんだということになる。検索するよりも答えが早く出てくる。

田原: 検索するよりも早いんだ。

孫: つまり検索は指でやるでしょう。

田原: 人間が入力したするする必要がないんだ。

孫: ええ。要するに頭の中で、「あれはなんだろう」と思った瞬間に答えが頭に浮かぶ、目に浮かぶ、あるいはディスプレイに出る。

 つまり人間の細胞っていうのは頭と、たとえば指が神経細胞で繋がっていて、微弱な電流が流れているわけです。電流でその神経に命令をしている。つまり「人体内ローカルエリアネットワーク」です。脳と通信をしている。しかも通信の媒介は電流です。

 コンピュータのチップも通信をします。記憶は全部電流でやっている。同じ電流で、しかも二進法です。人間の脳細胞とまったく同じ役割です。

 ということはこのチップをですね、ペタッと額に貼る。そうすると、ペタッと貼ったチップと脳が通信をして、思い浮かべたこと、あるいは自分の記憶の延長として、「外脳」がチップに入る。人間の左脳、右脳に対して、外脳のチップ、これが人間の脳の100万倍の容量を持つようになる。
「ソフトバンクはテレパシー・カンパニーになる」

田原: そうするとたとえば僕がペタッと貼っておき、孫さんがペタッと貼っておくと、僕が思ったことを、僕がしゃべらなくても孫さんは分かってしまう?

孫: そうです。

田原: 「田原はこんなことを今思っている」と。

孫: そうです。

田原: 「こいつ俺を殺そうと思っている」な、なんてわかる。

孫: そう(笑)。チップを貼って、これ"チップ・エレキバン"。

会場 (笑)。

孫 僕のチップ・エレキバンと先生のチップ・エレキバンが無線で通信する。これをテレパシーと呼ぶ。

田原: 本当のテレパシーだ。

孫: 本当のテレパシーです。だから「今から30年後のソフトバンク、何をやっているの? 300年後のソフトバンク、何をやっているの?」というなら、「ソフトバンクというのはテレパシーカンパニーだ」と言えるかもしれない。

田原: テレパシーって言うと今は超能力だけど、そうじゃない。コンピュータが実際にやっちゃうわけだ。

孫: 科学的にやる。だからそういう時代がくるんです。

田原: ちょっと待って。今、体を使う機会が減って筋肉をがだんだんいらなくなっているでしょう。そういう時代だと、脳もいらなくなるんじゃないですか?

孫: いるんです。ますますいります。

田原: そこを聞きたい。

孫: 何でいるか。単純な記憶は外脳のチップ・エレキバンに入れておく。単純な記憶はそこから検索する。それをベースに、それを材料としてどう使うか、それをイマジネーションする、想像する、クリエイティブする、それが人間の脳の役割です。

 だから人間の脳というのは、よりアートだとか、哲学だとか、愛だとか、その問題解決、提案能力、企画能力として必要なんです。

 いまのアップル社に例えていうと、組立業ではなくイノベーション、デザインを行う企業になっているでしょう。そういうことですね。
コンピュータが人間を超えるとき

田原: コンピュータには創造性というのはないんですか。

孫: いずれ出てきます。

田原: 2018年くらいにはまだそういう能力は人間にあって、コンピュータにはない?

孫: そうです。

田原: そっちが出てきちゃったら、ホント、人間いらなくなっちゃう。

孫: でもね、いずれ出来るようになります。いずれ出来るんだけれど、その彼らと人間が、ある意味、競い合いながら、でもある意味、融和しながら進化するという時代が、今から100年後にはくる。おそくとも200年後にはくる。

田原: 100年後は孫さんいない。しかし少なくとも20年後はまだ健在だ。その後はコンピュータが超えちゃうわけだ、人間を。

孫: チップの能力は、ですよ。まだソフトの能力は遅れてますから、そこまで若干の時間の余裕はある。でもこれは時間の問題です。人間を超えていくのは間違いない。

田原: そうするとソフトバンクのやっていることもだいぶ変わりますね。

孫: 変わりますよ、変わりますよ。だからまさにそういう意味で教育の内容を変えなきゃいけないということなんですよ。

田原: よく分かる。

孫: 要するに丸暗記中心で、問題を解くよりも大切なことがある。人間の100万倍も計算速度と記憶容量のチップがあったら、そんな付加価値の低いことやってどうすんの、と。
製造業はどこへ行ってしまうのか

田原: 今日は教育関係を中心に100人以上、この会場にはいます。せっかくなので2~3人質問を聞いてみよう。

孫: いいですよ。

田原: (会場に向かって)何か孫さんに聞きたい、ってことあったら・・・。はい、女性の方。

質問者A 1番最初にお話のあったことについて伺いたいんです。アップルの社長が「自分の社員には単純労働のようなことはさせられない。イノベーションだ」と言って、組立作業をどんどんどんどん違うところ、たとえば台湾にほうに製造業を回していった。では、世界中の人たちがイノベーションに目覚めたら、製造業はどこに行ってしまうんでしょうか。

孫: まぁ、最後はロボットになります。組立業の最後はロボットになる。ロボットがロボットを組み立てる、ロボットが自動車を組み立てるというふうに最後はなります。でもそうなる少し手前は、日本よりも10分の1の賃金で労働者を使える国々に移っていきますね。それが中国でありインドでありメキシコであり。

田原: ユニクロの柳井(正・ファーストリテイリング会長兼社長)に会ったんだけれど、今ユニクロは中国で生産しているわけ。だから安い。売れる。

 で、「もう中国から、そろそろ次はバングラデシュに行く。で、バングラデシュで生産してもらって、中国で売るんだ」と。こういうことですよね。

孫: そう。おっしゃる通りです。

 だから要するに、日本の労働人口というのは6000万人くらいしかいない。会社に例えて6000人社員がいるとします。この6000人の社員に何をさせるか。より付加価値の高い、1人あたりの賃金の高い、よりやりがいのある仕事に6000人をシフトするか、より賃金の低い単純労働の組立業で中国と闘うか、バングラデシュと闘うか。どっちが社員にとって幸せかということです。

 これから付加価値の低い、賃金の低い単純労働の組立業に向いた労働者を先生方がどんどん再生産していく、そういう労働者をこれから6000万人作っていくということになると、その子たちの将来はどうなりますか。先生方の罪が1番重いということになるわけですよ。

田原: つまりバングラデシュや中国で出来るようなものと同じ仕事をしている人は、バングラデシュや中国と同じ賃金になるんですよ。

孫:  そういうことなんです。だから「格差社会反対」って言うけれど、格差社会に反対ならば、世界的な格差社会の中で、より日本全体が墜ちこぼれになるか、その大きな格差社会の中で日本全体を上位の側に持っていくか、これが教育の基本理念、思想の中にないと・・・。これが国家戦略だと思うんですよね。
「電子教科書の金は誰が出すんですか?」

田原: じゃあ、次の人。はい、あなた。

質問者B 電子教科書が導入されたとして、現場はどうなるんでしょうか。僕は群馬県のある村の中学で教師をやっているんです。そこはおカネとしては全国でも3番目くらいに教育の備品を購入出来るという状態にあるんです。

 ところがパソコンに関しては、僕は国語の教師なんですけど、「インターネットで検索して国語のレポートを書こう」という課題を出して、パソコン室に行ったんです。パソコン室にあるのは、ウインドウズXPで、そして全員でインターネットを使い始めたら全部落ちちゃった。で、子供たちはiとlの区別も付かない。

 つまり、たとえば電子教科書が配備されたとしても、積まれているだけの状態が出来てしまうんじゃないでしょうか。そこの部分をどういうふうにするのか。ハードが用意されてもまったく使いこなせていない現状があるわけです。そこをどうするのかっていうのが非常に難しいのかなと思うんですけど。

孫 おっしゃる通りですね。だから今までのやり方ではダメです。それは間違いない。つまり、パソコンを普段は真っ暗なパソコンルームに鍵をかけて入れているという状態がそもそも間違っている。

 すべての学生とすべての先生方のカバンの中に、ランドセルの中に1人1台、毎日いつでもどこでも持ち歩けるようにすればいい。ここにiPadがありますけど、こういう状態でどこでも持ち歩く。

 僕なんて今これ、風呂に行くのにもトイレ行くのにも、車の中でも旅行に行くのでも、どこでも持ち歩いている。ないと気持ちが悪いという状態ですよ。

田原: 孫さん、素朴な質問ですが、そのカネは誰が出すんですか。

孫: それはですね、それは逆に言うと、国家が出すべきだと思うんです。

 ちなみにこのiPadの配布は280円で出来ます。

田原: 280円! 1個? 今数万円するじゃないですか!?

会場 (笑)

孫: いやいや、これが月280円。

田原: あ、月ね。

孫: 1台月280円。これはすべての先生と生徒にはタダで渡すと。2000万台。

 小学校から大学生まで、専門学校や聾学校も全部含めて1800万人のすべての学生と、200万人のすべての先生方に全員タダです。会場のみなさんも「なんか今日はいいこと聞いた」って思いませんか?

 これは、月1万3000円の子ども手当の内数として、月280円分の現物支給とする。そして残り1万2720円を現金で支給する。つまり子ども手当の内数とすれば、新たに税金を投入することもない。今1万3000円子ども手当を渡していても、親のパチンコ代に消えている。

田原: そういう人もいるでしょう。


孫: なかにはね。

田原: うん。
文科省の役人の目が死んでいた

孫: 1番大切なのは子どもの頭に投資する、日本の未来に投資することです。280円を内数として、全員にタダで現物支給で渡す。それで宿題の添削だとか、○と×を付けるくらいは自動でやらせる。

 むしろ先生方は、赤ペン先生の赤ペンの部分に力を入れて、生徒とコミュニケートする。ということにすれば、先生方の採点に使っている時間がぐっと圧縮出来てる。その時間をもっと知恵だとか知識だとか会話だとかディスカッションとか、そういうものに使えばいい。

田原: この話は文科省でやりましたか。

孫: 言った。

田原: 言ったらどうでした。

孫: 目が死んでいた。

田原: あ、死んでた。

会場 (爆笑)

孫: 「もうたいがいにせい」と僕は思ったね。

田原: もう1人行こうか。
農業はIT農業、漁業はIT漁業になる

質問者C 孫さんはIT関連産業の労働者比率を3%から30%にしようという。でも産業自体がサービス化されることがたぶんポイントであって、IT産業でプログラマーとかエンジニアがたくさん生まれることはポイントじゃないと思うんです。

 医療の従事者とか教育従事者が(サービスの使い方を)分かっていればそれでいい。産業構造の比率というのはあまり関係ないんじゃないでしょうか。

 それと、子どもに対する教育のことです。彼らが勉強して20年、30年たって戦力になるときに、まさに決定権者が知識に乗り遅れていて(若者が) ストレスを抱えてしまう。当然海外に流れて流れていくだろう。そう考えれば電子教科書を使うべきなのは、子供ではなくわれわれ教える側のほうじゃないのでしょうか。

 結局、子どもに押しつけているんですよね。そうではなく、今われわれがもう少し学ぶ場というか、デジタル教科書を使って、そこからなにかを得て子どもたちに投資をするというプランのほうが、差し迫った現状を解決するソリューションになるんじゃないかなと、考えるんですけど、いかがでしょうか。

孫 「30%くらいがIT 関連だ」と申し上げましたけど、残り70%のほとんどの人もITを自分の本業で活用する、そういう時代になると思うんです。

 IT農業でありIT漁業でありIT流通業でありIT金融業でありITサービス業でありというふうになる。あらゆる産業の基本的基礎能力としてITを最大限に活用するということになる。僕が申し上げた「国民の総人事異動」というのはそういうことなんです。

 大人がITを使うのは当たり前ですけど、でもね、大人になって急に英語を勉強しようと思ったって、あんまりしゃべりきらないでしょう。僕は16歳の時からアメリカに行っているからある程度しゃべれるんですけど、僕が30歳になって中国語を勉強しようと思っても無理です。無理。

 だから言語で言えば、僕は小学校1年生から、少なくとも国語、英語、もう1つがIT 語。この3つの言語は早ければ早いほどいい。小学校1年生から、日本語、英語、IT語を教える。脳が少し固まってしまった後にいろんなあとにいろんなことを覚えようとしても無理です。応用が利かない。

 こういう覚えなきゃいけないことは、出来るだけ頭が柔らかいうちにやって、途中からもっと考えるほうに力点を擱くようにすべきだと。

 そういう意味で、「子どもに押しつける」という言葉は気にくわないので、押しつけるのではなく、子どもには「デジタル・ネイティブ」として生まれたときから、あるいは小学校の1年生、最初にあいうえおを書くときから、英語もIT 語も当たり前のように電子教科書を---最初に紙と鉛筆を使うかのごとく---使うというふうになるべきだと思います。

田原: 愚問かも知れませんが、パソコンで文章を書くようになった。手紙を書くようになった。するとみんな漢字が書けなくなった。ITになるとそういうことが起きません?

孫: ある意味での退化と進化だと思います。要するに漢字が書けないというのはある意味での退化なんですけども、逆に言うとそれも進化だと僕は捉えている。

田原: もっと言うとね、今の退化の典型は携帯電話なんです。

 新聞記者は政治家への取材を携帯ですませる。フェイス・トゥ・フェイスで会いに行かない。で、(政治家も)携帯で返事するのはいい加減な返事なんですよ。そんな話を新聞に書いちゃう。便利になると、みんな苦労しない。そのかわりでどんどん退化するんじゃないかと思うんです。

孫: いや、それは両方だと思うんです。要するに、携帯の前の時代に電話を使っていても「人間が目と目を見て話をしないとダメだ」と言われていた。でも目と目を見て話せる一日あたりの回数、人数って何人ですか。

 それに対して、電話が出来ることによって、しゃべれる人の数ははるかに増えた。メールが出来たり、ツイッターが出来たりすると、はるかにコミュニケート出来る人数が増えた。しかも双方向で。

 だから便利になって効率を上げていく部分と、たまにはこうやってお会いして目を見ながら雰囲気を見ながら、場合によっては拳骨の届く範囲で、という緊張感のなかで・・・(笑)。

田原: そう。拳骨の届く範囲っていうのは大事です。唾を掛けてね。唾が掛かるのが大事。

孫: 大事。

田原: 要するに、携帯じゃ唾は掛けない。

孫: だからそれは急所でやるべき。

田原: え?

孫: 急所。

田原: ああ、急所。

孫: 要するに、いつもそれではなくて、ここぞという急所のときに、「やっぱりお会いして話をしましょう」というトドメを刺す。そこはやらなきゃいけない。

田原: 孫さんもそうしてらっしゃる?

孫: 僕もそうですよ。だから僕は毎月海外に行っていますもん。

田原: それを聞いて安心した。やっぱりフェイス・トゥ・フェイスって大事なんだ。

孫: 大事ですよ。だから時間の効率は悪いですけど飛行機に乗らなきゃ行けないけど、毎月アメリカに行ったり中国に行ったりシンガポールにいったり。それは目を見てフェイス・トゥ・フェイスで。

田原: やっぱりそこが一番大事なところですね。僕はITに反対じゃない。電子教科書も反対じゃない。だけど、効率がいいもんだから、だんだん教師がサボタージュして、手抜き手抜きになるんじゃないかというのが心配なの。
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日本の先生は雑用が多すぎる

孫: そこでね、ちょっと面白いデータがある。

 小学校の先生方が生徒に直接指導するために費やしている時間のパーセンテージは、実は全体の37%なんです、日本は。

田原: あとは何をしているの。

孫: あとは点付とか事務連絡とか明日の授業の準備とか、そういうことに残りの63%を費やしている。で日本の先生方は、労働時間は結構長い。

 だから労働時間は割と長くて、過酷な労働をしているんだけれど、授業というものに費やせる時間は約40%。他の国々と比べると、かなり低いんです。

田原: つまんない仕事をいっぱいしているわけだ。

孫: そう。身体はいっぱい使っているんだけど。

 アメリカですら57%、韓国は50%です。つまり50~60%を授業に費やしている。日本は直接指導に当てられるのは37%です。

田原: 雑用が多すぎるんだ。

孫: そう、雑用が多い。だから点付けなんていうのはね、電子教科書で自動的にやりゃあいいじゃないか。先生が時間を割くのはそこではなくて、赤ペン先生のように、手取り足取り指導をするところ、あるいは「正解率の低い問題については明日の授業でさらにもう一回復習しよう」とか、ディスカッションをしようとか、そういうふうに科学技術で出来るところは出来るだけ端折りましょうと。

 さっきの電話もそうです。事務連絡的なところ、あまり感情を伴わなくてもすむようなところは機械を使ってやりましょうと。で、肌で見て、抱き合ってやるようなところは、はやりハイタッチ(人間同士の触れあい)で。だからハイテク&ハイタッチだと。


田原: 両方必要だと。

孫: うん。だから仕事もハイテク&ハイタッチ、教育もハイテク&ハイタッチ、医療もハイテク&ハイタッチですよ。

 で、シリコンバレーの人たちほど、それぞれの自宅にプールがあって、庭には緑がある。一件当たりの自宅にプールがある率は、シリコンバレーが一番高いんじゃないですか。

田原: カネを稼いでいるから。

孫: カネを稼いで、仕事場に行ったらハイテクだらけ、家に帰ったら庭の緑とプールと家族とバーベキュー。

田原: 家にはハイテクはないわけ?

孫: あります。家の中でもそのハイテクでチャッチャッとこなして、で、あとは家族とバーベキューしたり歌を歌ったりというハイタッチの生活です。仕事の生産性はハイテクで徹底的に生産性を上げて、土日は家族とわーっと過ごす。そういうふうにものすごくメリハリがある。アートを愛するし、健康を愛するし。

教育と格差社会

田原: それは分かるけど、シリコンバレーでプールを持っているのは国民のごく一部で、アメリカの平均年収は日本よりも低い。それに貧しい層は日本よりもはるかに多い。

孫: そうです。それは3億人以上いて、世界中から移民も積極的に受け入れているから、トータルの平均年収はそういうことなんですよ。ところがいわゆる教育をきちんと受けて、純粋なアメリカ育ち、アメリカ人という家族はやっぱり(年収が)高いんですよ。

田原: それが問題です。きっと孫さんはそうおっしゃるけれど、みんなはそうは言わないでしょう。そんな格差があっていいのか、っていう話になっちゃう。

孫: おっしゃる通り。これがね、逆に思想の部分なんです。思想の部分として、日本は丸ごと、手をつないで赤信号に向かっていく、手をつないでみんなで沈みましょう、というふうになって、日本全体が世界の格差社会で沈むか・・・。

田原: 今はそうなりつつあるんですよ。

孫: あるんですよ。だから競争を嫌うこと、国内のなかでの格差を嫌うこと、頑張ろうとする者・競争で抜きんでていこうとする者の足を引っ張ることが、格差社会の是正になると勘違いしている人が多い。

田原: それが教育だと思っている人がいる。

孫: そう。格差社会反対といって、上に行っている人を引きずり下ろそうとする。教育もそうです。成績のいい子どもを引きずり下ろしてイコールにすることが格差のない教育だと思いこんでいる部分に問題がある。

田原: そうじゃなくて、下の人を上げろと。

 日本のシンクロの有名な鬼コーチである井村雅代さんはすごい。一度あの人を取り上げたNHKか何かの番組を見て驚いたんです。

 シンクロで全員で足をビッと上げなきゃいけない。そのときに一番能力のある選手は足が先にピャッと行く。それで真ん中くらいのレベルの選手は少し遅れていく。落ちこぼれはさらに遅れて足が上がる。さてそのときにです。シンクロは全員が揃わないとダメなんです。全員が揃わないといけない。格差ゼロの足上げにするためにどうするか?

 一番能力があって最初にピッと足を上げる選手に、「お前早すぎだ、ええカッコすな」と言って0・1秒遅らせる、ということでシンクロさせることもできる。合わせやすい。

田原: でもレベルは落ちる。


教育にとって社会のニーズとはなにか

孫: その代わり平均に合うわけです。でも井村さんは違う。平均に合わせてシンクロさせるのではなく、一真ん中の選手の尻を叩いて「一番早い選手に合わせろ」と、一番落ちこぼれの選手には「泣いても合わせろ」と言って一番スゴイやつに合わさせて残り全員を引き上げるというのがあの人の方針なんです。

田原: 今の教育の方針は、一番出来るやつは放っておくんですよ。勝手にやれと。

孫: そう。一番出来るやつには「お前、出来すぎだから、次の次のページのことを聞くな。自分ばっかり先走るな」と言って頭を叩く。それだからやる気をなくすわけです。

 僕なんか二週間で、高校三年分をアメリカで卒業したんですから。こんなの日本では、「早すぎた」と叱られますよ。

田原: (会場に向かって)ねえ、これに反論のある人? 「違うぞ」という人、手を挙げて。

質問者 反論かではありませんが、今この会場で議論を聞いていると、電子教科書導入で二つの問題があると思うんです。一つはミクロの問題で、電源がどうなっているとか、電子教科書が入ってきて学校がどうばたばたするかといった問題と、それと大きな社会の問題があると思うんです。

 教育というのは方法で、どういう生徒を育てるか、社会のニーズに沿ったような生徒を、先生方は真面目に一生懸命社会に送り出すのが務めだと思って日々頑張っているわけです。

 その社会がものづくり中心だったり、それから世の中の考え方として、学歴社会というのがあったり、受験戦争で暗記型の受験問題だったりすると、せっかくいいデジタルの教科書が入っても、それを使いこなしている子どもたちが社会に出たときに、社会と上手くやっていけないというか、そういう・・・。

田原: ちょっとあなたに聞きたい。社会のニーズって何ですか。

質問者D ですから今の日本の社会のニーズっていうものが、たとえば学歴社会というものであるとしたら、そういう社会のニーズに沿った生徒を育てるというのがやっぱり・・・。

田原: じゃあ、「あんまりいい大学に大学に行くと思うな」と?

質問者D 子どもたちがいい大学に入りたいと言えば、暗記型の受験問題であれば、それに沿ってやります。「情報」という授業がありますけど、ある進学校では情報の時間にパソコンを使わないで数学をやらせたりということが過去にあったわけですよね。そこらへんの歪みっていうものがあって・・・。

田原: ちょっとごめんなさい、今、孫さんに代わって言う。さっき孫さんがおっしゃたのは、今の大学がなっていないということもある。

孫: そうです。

田原: アメリカの大学は、どっちかというと入学は易しい。でも卒業が難しいんだよね。日本の大学は入学試験ばっかり難しくて、卒業は楽なの。なぜか。単純に言うと、「大学教授がサボりたいから」。そこを直さないといけないと孫さんは言っている。

孫: で、大学教授はどこかの役所のナントカ委員にばかり出ている。

田原: そう。だから東大の教授はノーベル賞を貰えないんです。京大は(霞が関から)離れているから、文部省やなにやらの審議委員とかになれないから、一生懸命勉強してノーベル賞貰っている。まあいいや、これは余計な話。

質問者 だから教育だけを変えるとかそういうことじゃなくて、それはデジタル教科書を入れるとしたら、もう日本の国全体で、「IT立国を作るんだ」という取り組みがなくちゃいけない。

田原: だから最初にクラウドっていう話を孫さんにしてもらったんです。これはもう社会が全部変わるんだと。



教育にとって一番大切なのは「思想」

孫: まず最初の簡単なほうの質問からお答えしますけど、たとえばこのiPad---まあ僕はiPadを売っているからiPadばかり言っていて怒られるかも知れないけれど---アンドロイド・パッドもこれからどんどん出てきますから。

 これが、10時間電池が持つわけです。つまり学校で勉強している間くらいは家で充電しておけば一日まるまる大丈夫です。さらに今でももうすでに10時間持つわけですから、これが20時間、30時間になると。それから充電するのに家で忘れても、学校で充電くらいは出来るでしょう。そういう問題は技術で簡単に解決出来る、短期的な問題です。

 見せる字がきれいだとか汚いとか、速度が早いの遅いの、ソフトがいいの悪いの、コンテンツやアプリケーションがいいの悪いの、これは短期的な問題だから、さしたる問題ではない。

 一番大切な問題は今二番目にお聞きになられた思想の部分ですよ。要するに生徒に何を教えるのか。それは国家の方針、国家のビジョンがあって、そのこれから30年後、50年後、100年後の日本の天下国家をどうしたいんだと。これを日本のリーダーが語らなければいけない、総理大臣が語らなければならない、文科大臣が語らなきゃいけない。

 ということで、今の政治家の先生方に一番求められていることは、来年のマニフェストどうするかとか、再来年の選挙どうするかという次元のことではなくて、30年後の日本の天下国家をどうするんだ、50年後の日本の天下国家をどうするんだと語ることです。農耕社会から工業社会になって、どうかすると政治家の議論がまた農耕社会に戻りそうな議論をすぐしたがる人がいる。

 選挙のたびに長靴履いて田んぼに入って票取りをしたい。そればっかりがまた日本のNHKだなんだで流れる。選挙の前になると、必ず墓参りと田んぼで長靴を履く。そうするとなんか「あの人は立派な政治家だ」と。それって日本の社会全体をまた農耕社会に舞戻したいのかと。(農業・漁業は)GDPの2%ですよ。それで日本の天下国家が支えられるますか。

 そこからせめて工業化社会だし、工業化社会も今から30年たったら絶対に組立業では成り立たない。だから頭脳革命、情報革命のところに子どもたちを送り出さないといけない、そういうIT立国をしようというビジョンが必要です。

田原: 日本の自動車会社は20年後どうなるんでしょうか。 

孫: 彼らがIT自動車メーカーにならなかったら・・・。

田原: どうするとなれるんですか。自動車メーカーはどうやれば20年後に生き残れるか。

孫: シリコンバレーから、あるいは日本にいるコンピュータに詳しい頭脳を持った学生を優先的に自分の会社に入れることです。

 日本の自動車メーカーだって、アメリカのシリコンバレーの電気自動車メーカーと提携したりすればいいんです。そして、みずからIT自動車を開発していかなきゃいけない。

 20年前、30年前には、日本は車を電子部品化してドイツ車に勝ったわけです。アメリカ車に勝った。

 これからの自動車は、電子部品で勝つのは当たり前です。それ以上にITで勝たなければいけない。つまり車1台に20台入っているマイクロコンピュータを1台あたり50台にする、さらにもっと優れたチップにしてセンサーと全部連絡をし、クラウドと交信する、と進化させていかなければいけない。

田原: いずれにせよ日本の自動車会社はこのままじゃあ20年後にないですよ。なぜならば、それは中国や韓国やバングラデシュやインドで、決定的に安い車が出来ちゃうからです。

孫: そうです。これからは日本の自動車メーカーはエンジンのスピードを競うのではなくて、車のなかに入っているマイクロ・コンピュータの計算速度を競うようになります。そのマイクロ・コンピュータがクラウドと通信をする速度を競う。だから新しい自動車メーカーの速度競争は、エンジン速度ではなく・・・。そもそもね、200キロなんて出したら捕まるんだから(笑)、エンジンの速度を競うのではなく、コンピュータの計算速度と通信速度を競う。

 そもそもグーグルが今やっている新しい自動車って何かっていうと・・・。

田原: グーグルが自動車をつくってるんですか?

孫: やっているんです。グーグルが資本参加して共同開発しているんです。僕は来月、シリコンバレーに乗りにいってきますよ。

田原: どんな自動車ですか?

孫: 車を人間が操縦しないんです。ロボットカーです。ロボットがすべてを操縦するんです。

田原: 人間はどうしているんですか?

孫: 法律上は一応、運転免許を持っている人が乗っていなきゃいけないので乗っているんだけれど、腕組んでいる。

田原: 薬屋さんみたいなもんだ。

孫: え?

田原: 薬屋さんは、薬剤師の資格を持っている人がいないと薬屋を営業出来ない。でも座ってりゃあいい。

孫: ははは(笑)。だから運転手も腕組んで、コーヒー飲みながら、本を読みながらでいい。車のなかにあるコンピュータが並列処理で、200個くらいある高速カメラ、レーザーカメラが360度スキャンする。通りすがる相手側の自動車、横切るおばあさん、信号、曲がり角、下り坂上り坂全部をコンピュータの目がブワーッとスキャンしながら、それで目的地に交通渋滞を避け、ブレーキも掛けたりする。

 この自動車、グーグルが6台かな、常時走らせて、グーグルマップのストリートビューの画像はそのロボットカーで撮影していっているんです。

コンピュータは最後、二束三文になる

田原: 僕は車の運転手っていうのは最後まで残る筋肉労働だと思っていたけれど・・・。

孫: 違います。人間がクルマを運転すると交通ラッシュの時でも7%しか道路を有効活用していないんですよ。ラッシュの時ですら、道路って93%は空き地なんです。それは人間が非効率的な、しかも事故を起こすような間違った下手くそな運転をやっているからです。

 これが人間の運転手を排除して、ロボット運転自動車だけになったらどうなるかというと、交通ラッシュがなくなって、常に事故を起こさないでシューっと同じ速度でガーッと行く。曲がり角も効率よくピャッと曲がる。で事故を起こさない。

田原: 高いんじゃない、値段は?

孫: 高い。今めちゃくちゃ高い。今売っていないですよ、高すぎて。

田原: 将来は安くなる?

孫: コンピュータですから最後は二束三文になる。コンピュータ・チップというのは最後は砂ですから。一回設計してしまえば、コピーなんです。

田原: 今日ここにきている先生たちに申し上げたいのは(この対談には観客として教育関係者150人を招待しました)、今ある大企業が20年後に今のままではほとんどなくなるということです。

孫: そうです。だから日本の自動車メーカーだって、まさにグーグルカーと闘わなきゃいけないわけです。

 電気自動車も大事だけれど、電気自動車だって台湾勢、韓国勢、中国勢に抜かれますよ。だってパソコンで使っている電池を積んでいるわけですから。モーターだってピュッと組み合わせたら出来るでしょう。そういうパソコンの組立と同じように自動車も組み立てられる。

 だから大事なところは、組立業ではなくて、今言ったロボットカーのようにインテリジェンスのコンピュータで勝負するという時代になったということです。

田原: 肉体労働で勝負しようとするならバングラデシュ並みの給料になっちゃう。それが嫌だったら肉体労働じゃない、インテリジェンスで勝負しようと。こういうことですね?

孫: そうです。だからね、今すぐ電子教科書だIT国家だというと、「それを使えない人たちは落ちこぼれて、どうしますか」という質問が必ず出るんだけれど、いやいや、30年後の日本の中心的労働者を育てるために今の10歳、7歳、15歳を教育しましょうということです。30年なんてすぐくるんです。20年なんてあっという間です。

最初に知り合ったときは社員が3人だった

田原: 孫さんと知り合ってもう20年以上たつ。

孫: なりますよね。僕がヤフー・ジャパンを作ってからでも15年です。

田原: 孫さんに最初取材したときは、社員が3人だった。

孫: あ~、そうそう。そうですよ。最初のうちの会社案内は・・・。

田原: 僕が推薦している。

孫: 推薦どころか写真付きで登場していただいたんですよね。

田原: その会社がこんなになっちゃったんですからね。

孫: 一番最初の会社案内は田原さん。あの頃はこんなに有名じゃなかった。

田原: 全然有名じゃなかった。

あっという間に20年なんてたちます。

 だから日本の子どもたちの教育というのは大学の受験に通らすための教育ではなくて、その受験を通らすための子どもを作るための教育ではなくて、日本の国家を作るための、日本の天下国家を作るための教育であるべきです。

 日本の50年後、100年後は先生方が作るんです。その先生方と「どういう国家にしようか」という議論を、文科大臣がしなきゃいけない、総理大臣がしなきゃいけない。そういう話だと思うんです。

農業でGDP3%成長が達成できるのか

田原: 一番問題なのは日本の政治なんですよ。今の政治を見ると、民主党はどんどん支持率が下がる。「国民からかけ離れているんだ」とみんな思っている。でも全然かけ離れていないですよ!! 国民に沿いすぎているんです。

 民主党の支持率が下がっているのは、国民に沿いすぎているから、密着しすぎているからです。なぜか? 

 たとえばさっき言った予算で言えば、歳入が37兆円、歳出が92兆円、借金が44兆円プラス10兆円。ムチャクチャでしょう。

 これをなんとか健全化するためには、誰が考えてもやっぱり歳入を増やす、増税しかない。だけど国民は増税を嫌がっている。じゃあ増税が嫌なら歳出を減らす、福祉を減らす、地方へのカネを減らす。それも国民は嫌がっている。何にも出来ない---。

 大事なことですよ。マスコミはムチャクチャ書いているからね。国民のニーズに、政治が合わせようとするから、結果として何にも出来なくなった。

孫: そうです。だから選挙で勝とうと思うと、甘い言葉を囁かないといけない。甘い言葉って何ですかというと、「すべての福祉には要望通り全部払います。で、増税はしません」と。

 だから増税をせずに、なおかつ要望を全部聞きます。そうすると借金がどんどん増える。皆さんの家庭だって収入以上に家族で使っちゃって借金が増えていったら破産します。会社だって、売り上げの倍も経費に使ったら倒産して当たり前です。

田原: 日本は三倍使っているんですよ。収入の。

孫: 日本の国はそれでは保たんということですよね。

田原: ところがね、「これじゃあ保たない」といってみんなが「そうだ」と言うけれど、じゃあ税金を上げるかいうと「ハンターイ」と。福祉を下げるかというと、「ハンターイ」と。だから民主党の菅さんは何にも出来ない。

会場 (笑)

孫: どんどん人気が下がっちゃうんです。だけど、唯一そこに答えがある。

 唯一ある答えは何か。今すぐの問題解決は難しい。じゃあ30年後はどうか。30年後まで、日本のGDPを毎年平均で1%ずつ伸ばしたいか? 1%伸ばすと日本のGDPは700兆円になります。2%伸ばしたいか。2%伸ばすと900兆円になります。

 3%にしたい、それで1200兆円にしたいということで、もし1200兆円に出来ても国際社会の中での日本のGDP のランキングはそれでやっと4位が保てるんです。4位です。

 もし1%でいくなら8位なんです。インドネシアに負けるんです。日本がODAで助けている国に見下ろされる存在になる。それでいいのかと。

 だから3%成長させたいとすると、今よりも700兆円増やさなきゃいけない。今よりもGDPを700兆円増やすということは、倍以上にするということです。その700兆円を増やすのに、農業で増やせますか。漁業で増やせますか。

田原: 今、農業総産出額は8兆円。

孫: うん、農業、漁業全部足して、日本のGDPの2%しかない。農業漁業、全部足して10兆円。その10兆円を倍にしたところで10兆円しか増えない。倍にするのって難しいですよね。

 だから先生方が教育すべき日本の労働人口をどこに持って行くべきかというと、倍にしてもたった10兆円しか増えないところに持っていくんじゃなくて、700兆円増やすためには、そのうちの40%をまかなうITなんです。

 700兆円増えるうちの40%はITで稼ぐ、頭脳で稼ぐ、頭脳労働者で稼ぐ。これをやると、残り60%の成長も単純労働のものづくりではなくて、頭を使うものづくり、頭を、IT を使った流通、ITを使った金融サービスになる。

 だから皆さんの役割は、実は天下国家で一番大きいんです。

田原: 大きい。

孫: 日本のくに作りは、皆さんが担っている! だから今日呼んだんですよ。

会場 (笑)

田原: 皆さんが今教えている生徒たちが一人前になる頃、つまり20年後ですよね。

孫: そう。頭を使う日本人にする。身体を使う日本人ではなく、頭を使う日本人にするというのが皆さんの一番大切な役割です。

 そもそも教育って頭を鍛えるためにやるのとちがいますか。身体を使うための教育をしてどうするんだと。頭を使う教育をするんじゃないのかと言いたい。

 頭脳労働の世界で平均値を高くしなければいけない。それは全員がというわけにはいかないけど、せめて基礎能力はそこに全員が持たせないかん。全員が英語をしゃべれる必要はないけれど、全員に中学一年生から教育しているじゃないですか。

学校でどんどんディスカッションをして欲しい

田原: 今日、孫さんは強烈な刺激を皆さんに与えたと思う。この強烈な刺激について、これから皆さんね、それぞれの学校でディスカッションしてほしい。

 「孫はこう言っているけれど、こんな問題があるじゃないか」と。それで、「こんな問題があるけれど、その問題を孫さんが言うようにやらなかったら今の教育変わらないよ。どうすんだ」とかね。

 これからは、これを刺激として、皆さんがどんどんディスカッションしてほしいと思う。

「30年後に100万倍の能力のコンピュータが生まれる。これ一台で4億年分の新聞が入ります。そうすると社会はどう変わるか、仕事はどう変わるか。皆さんが社会人になった時、仕事は、社会はどう変わると思うか。その絵を描け。それを議論してくれ」と。

 そういうと、それは答えが一つある問題ではないから、まさに生徒たちが目をキラキラさせながら絵を描く、作文をする、議論をする、ディスカッションをする。

 そのことは、30年後もその子どもたちは、「ああ、そう言えば僕が10歳の頃、私が10歳の頃、先生がああいう問題を投げかけたな。あのとき、私はこう思った。

 こうやって画用紙に描いた。そのうちの半分は現実のものになったな。振り返ると、子どものときは俺は天才だったな。大人になってちょっとズレたけど」と。

田原: ハハハ。

「教育とは何か」をツイッターで問うてみた

孫: 同窓会をしたときに、そうやって昔を思い出して先生方と子どもたちが語り合えたら、先生方は「幸せな仕事を私は全うした。この子どもたちに真に役に立った。かけ算、九九を覚えさせてなんぼのもんじゃ。みかんの特産地を覚えろ、そんなものを俺に言わせりゃコンビニや。二十四時間売っとるで」と思える。

会場 (笑)

孫: みかんの特産地にもぎに行ったこと、僕は生まれてから一度もないですよ。まあそれも大事だし、みかんの特産地を覚えるなとは言わない。

 だけど順番として、もっと大切な議論があるだろう。30年後の皆さんの生活はどうなるんだと。何に頭を使えばいいんだと。そういう議論の方が生徒たちにとってはるかに有益です。あらゆる動画を見て、目をランランと輝かせて・・・。

 僕ね、「教育って何だろう」って、ツイッターで問うたことがある。教育で一番大切なことって何だろうってツイッターで問うたら、いろんな答えが一晩で集まりました。その中で一番僕が「なるほど」と思ったのは、「感動を与えることだ」と。

 つまり子どもたちは感動したことを一番覚える。感動したことに一番、頭がガーッと活性化する。無理矢理覚えさせられたもの、嫌々やらされたもの、そんなものは覚えない。そんなものは学ばない。それよりも何かにガーンと、僕が最初にチップを見て涙を流したように、そういう感動を与えるものが・・・。

田原: 皆さんが一番軽蔑されている予備校、日本で有名な予備校だけど、その先生が行っていた。「予備校っていうのは何か? 感動を与えるところだ」と。

孫: いいことを言う。

田原: 「今の学校が感動を与えないから、予備校が感動を与えるんだ」と。なぜなら、別に予備校なんて来なくたっていんだから。「感動を与えなきゃ来ない」と、そう言っていた。

 そうではなくて、電子教科書で、中国の子どもと英語で、身振り手振りしながら会話をする。繋がる。アメリカの子どもと、ロシアの子どもと、英語でこうやってしながら、自分の30年後の絵をばーっと見せて、これで感動を与える。

田原: よく分かるんだけれども、やっぱり「教育とは何か」ということがちゃんと出来ていないとやんないよ、そんなことは。

孫: そう。だからやっぱり天下国家を政治で議論をし、国家のビジョンを作り、その国家ビジョンに合わせて、教育をそっち方向に持って行くと。

30年後の社会を見据えた教育を

田原: 孫さんがおっしゃっていることを一言でいうと、20年後、30年後は今の社会とバーンと変わると。大きく変わっていると。トヨタがなくなっているかも知れない。ホンダがなくなっているかも知れない。ホントだよ。

 そういうときに世の中に出る生徒たちのために、どういう教育をするのか。

孫: そういうことです。アメリカでゼネラルモーターズが潰れるなんて、30年前、誰一人思わなかった。国家から救済されたわけです。オバマ大統領からね。そんなこと30年前のアメリカ人、日本人、誰も思わない。でもそれが現実になったわけですね。

 だから単に単純労働で労働賃金の低い組立業、農業でも労働賃金の低い、700%の関税で人工的に守られているというようなところにすがりついていちゃあだめだ。

 農業もITを使って、日本の優れたタネとか農業の工法を科学的なもの、ITを使って磨き、そのタネをベトナムで植える、カンボジアで植えると。そうやって世界に打って出る。TPPの時代でも競争力を保てる農業に変えなきゃいけない。そういうことだと思うんですね。

田原: 皆さん、これが強烈な刺激だと思うんで、「どうすりゃいいんだ」と本気でディスカッションして、ね、孫さん。

孫: はい。僕はちょっと過激に言いますけど、でも本音です。本音で申し上げました。

田原:孫さんの本音はこれまで30年は当たってきたね。

孫: 当たってきたと思いますよ。

田原: これからあとの30年は当たるかどうか分からないけれど、少なくとも彼に僕が取材してからこの30年間は当たっているんだ。


 僕はユーストリーム、ツイッターの経営陣ともしょっちゅう、毎月のように会っています。彼らは「このサーバーに入ったアーカイブは500年は残す」と言っています。ですから30年後に今言っていることが、「なるほど、そういう社会になったな」と思われるか、「あいつはバカだ。嘘っぱちだ。エキセントリックだった」と思われるか、そのときに検証出来ます。そういうことです。

田原: 少なくとも今までの30年間、孫さんが言ったことは間違っていなかった。これからは分かりませんが、たぶん、そうとう信用出来るとは僕は思っています。