2010-12-09

尖閣問題に関する

尖閣問題に関する


 2010年は日中関係の転換点として後世からも記憶されるだろう。中国の国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界2位となることが確実視される中、沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船の衝突事件を機に対立が表面化し、互いの国民感情を揺さぶる。緊迫する朝鮮半島をはじめ火種があらわになる東アジアの安定と平和構築に向け、日本と中国はどのような政策や、国民的な視点が求められているのか。

尖閣問題をめぐる日本の政治家やメディアの論調は、中国人船長をなぜ釈放したのかとミクロの視点にとどまっています。東アジアの国際政治の流れと構造に目を向けないと問題の本質は見えてこないと思う。

 まずは米国の対中政策の!)豹変(ひょうへん)があります。台湾・貿易(トレード)・チベットの「3T問題」で昨年末から圧力をかけている。オバマ大統領は台湾へ64億!)の武器売却を決定し、人民元切り上げを迫り、ダライ・ラマ14世との会見に踏み切った。

 中国は1990年代半ばから続く高度成長で外貨準備高は約2兆4千億!)(昨年末)と膨らみ、大国意識や自信が生まれつつある。外国からの圧力を感じると、軍部の少数派だが強硬的な姿勢を見せ始め、若年層はナショナリズムを高める。

 中央指導部は穏健的な外交路線を「弱腰」とインターネットでも批判され揺れていた。!)小平時代からの「韜光養晦(とうこうようかい)」という目立たない外交政策を見直し、米国の圧力に反発しようとする動きが出ていたところへ中国人船長が逮捕された。それで反発が強まった。日中関係に大きな影響を与える米中関係の変化を看過するべきではありません。

 他方、日本は長引く不況から自信を喪失し、中国の台頭を脅威に感じ、どう対抗するかについての議論が盛んになっています。一つの雰囲気ができてしまうと異論を受け入れず、メディアもたたかれないよう大きな流れに合流しがちです。

 「中国は異質」の見方は付き合いが深いレベルに入ってきた表れでもある。日中は政治体制が異なり独自の文化や価値観を持つ。インドとの連携を促す声も出ているが、本格的に付き合えば違いも見えてくるでしょう。

 中国のGDPが日本を上回っても一人当たりは約10分の1。日本に追い付くのは数十年はかかる。中国は1日1!)以下の貧困層が約1億5千万人もいる途上国です。山積みする国内問題を謙虚に見つめ、平和的な台頭と国際協調の外交路線をとるべきでしょう。

 日本でいえば「遠交近攻」の外交政策を見直した方がいい。20世紀初めは英国との同盟でロシアと戦い、30年代はドイツと結び中国を侵略し、米英との開戦に突入した。戦後は米国との安保条約と年の新ガイドラインによる同盟強化で中国や北朝鮮を脅威とみなす。相手からすれば包囲しようとしている。

 欧州と違って東アジアは冷戦構造が続いています。中国と台湾、韓国と北朝鮮。分断国家があり「敵味方」「実力主義」を志向している。東アジア全体の安全を保障する体制を厳しいがつくっていくべきです。2国間の同盟強化は他国の不信や不安をかきたてる。

 日中が2006年に合意した「戦略的互恵関係」は、私に言わせれば「東アジアの平和と発展に共に責任を持つ」「ウィンウィン(相互勝利)」を図ること。「東アジア共同体」が無理なら、異なりを認め合う「東アジア共生体」を構築していくべきだ。それには国民の持続的な力が必要不可欠です。

 中国は貧富の格差が言われるが「中流階級」が拡大している。国民意識や政治体制は変わっていくだろう。日中ともに「敵味方」志向と決別し、新しい時代をつくる理念や思想が求められています。