2011-11-28

中国で最も有名な日本人が駒場で吠えた!

「日本人の海外留学はローリスク、ハイリターンだ!東大生よ、いまこそ世界へ出よ」

なぜ今更海外なのか!

 先週の土曜日、東大の駒場祭にて面白いパネルディスカッションに登壇してきた。これが最高に面白かったので、今週は予定を変更してこのパネルで語られた内容を伝えたい。

 テーマは「若者よ世界へ出よ」というもの。私以外のパネリストがとても刺激的だった。「中国で最も有名な日本人」と言われる北京大学研究員の加藤嘉一氏。東大理事の江川雅子さん。そして私。これに東大3年生の田中宏樹さんが絡む。

 会場は、3時間半近くの長丁場にも関わらず、大勢の立ち見が出るほどの大盛況。高校生から初老の紳士まで幅広く駆けつけて頂いたが、大半はやはり大学生。もちろんマジョリティーは東大生だった。

 基調講演の加藤嘉一氏の話はとても刺激的だった。高校卒業後、中国語も知らないまま飛び込んだ北京大学での学生生活を赤裸々に話し、等身大の留学の面白さを熱く説いてくれた。

私が彼を最高に評価するのは、ガッツあふれる話術もあるが、その奥に光る教養だ。これは並大抵の努力では身につかない。それは彼の、中国版簡易ブログ微博( WEIBO、 うえいぼー)を見ればわかる。なんと500万人以上のフォロワーがいる。内容の面白さもあるが、それ以前に書かれている中国語が完璧なのだ。漢字も言い回しも。

民主化を煽るような過激な内容もあるが、それに絡ませている中国の古典や故事成語の引用がすごいのだ。中国人でも知らないような知識を正確に理解し引用してある。これだけの教養と中国語を駆使できることが彼の能力と積み重ねてきた努力を証明している。本物だ。

 さて、パネルディスカッションの中身に移ろう。最初の問いかけは「なぜ今更海外?」というものだ。この「なぜ今更海外?」という問いこそが、東大生を始めとする日本人学生の今の海外留学への醒めた思いを代弁しているのではないか?いきなりクライマックスのような議論である。
死ぬまで自分で稼ぐ時代

 私は「世界の変化」を挙げた。まず国内環境の変化。

「皆さんの時代は年金はあてにできない。支給開始年齢が80歳になっていると思う。医療技術のおかげでなかなか死ねなくなるからだ。加えて、社会保障費削減で自己負担の医療費は急騰する。莫大な医療費を背負ったまま死ぬまで自分で稼がないといけない。

 その一方、グローバル競争の激化により、日本企業の生存期間は短くなり、長期雇用も約束されなくなる。生き残る企業では、雇用体系も、要求される能力も今とは全く変わってくる。経営陣も全員外国人で能力主義が徹底されるだろう。どこか大きな企業に就職できたら幸せな老後が待っているなんて絶対ない!死ぬまで自力で稼がないといけない時代になる」

「海外に興味があろうがなかろうが、純粋にドメスティックで生き残れる産業や企業はなくなってくる。今はドメスティックにやっていけるだろうが、そんな美味しいところに強い海外勢が目を付けないはずはない。築地の百年続く老舗企業も静かにグローバル化してる。鳥取のローカル企業もそう。今のうちに視野は広げた方がいい」

 次に海外の面白さを挙げた。

「ここにいる大学生の皆さんは気が付いたらバブル崩壊、デフレ突入の日本しか実感していないと思う。しかし、日本以外の世界、特に新興国はインフレ環境にある。人口、所得、株価、雇用、家賃、全てが右肩上がりの世界を経験してほしい。未来への期待こそが日本の生きる根源の大きな部分だと思う。未来への期待がある世界を見てきてほしい。そこでチャンスをつかもうと頑張る同世代と切磋琢磨してほしい。ものすごいパワーを皆さんが感じたら出せる力が倍増すると思う」

 東大生からの反論が“らしく”っておもしろかった。

 まず「留学のリスク・リターンがあわない」というもの。「留学はお金がかかる割に就活で評価されない。いや評価されないどころか時間的に就活の足かせになりかねない」というもの。
日本人の留学こそローリスクハイリターン!

私は「何を言っているの?!天下の東大生が情けないこと言わないでくれ。皆さんが学んでいるのは日本一の学校だよ。日本や日本人をリードをする役割があるんだ。個人の就活を最優先にするなんて情けない。日本をよくする、世界を変えることを目標にしてほしい。

 第一そんな会社に入っても将来のリスクが増すだけだ。世の中はものすごいスケールで変わっていく。皆さんは後60年、元気に働いて稼がないといけないのだ。60年のスパンでみたら、今の目先の就活に標準を合わせて学生生活を進めてしまうほど危険なことはない。

 人生は逆算だ。60年後がどうなっているかから逆算して準備しなきゃ!間違いなくグローバルな世界で世界中の同世代との競争や協働がさらに当たり前になると思う。今こそやるべきだ」

加藤氏も「今が一番リスク低いじゃないか?!円は強いし、日本人はどこへ行っても好かれているから、最強のパスポートを持っている。ビザも免除だったり、取りやすい。若いうちがリスクも低いんだよ」と熱弁。

私も続けて、「その通り。年を重ねるごとに失うものが増えてくる。結婚し子供ができたり、親が介護が必要となれば、簡単にリスク取れなくなる。身軽で失うものが少ない若いうちにチャレンジするのだ!人生は誰でもいつか失敗する。失敗からしか学べないし、失敗が人間を強くしてくれる。若い内に悔し涙を流しながら学んだ方がいい」と続けた。

そうすると別の東大生が「そうはいっても海外留学に関する情報がないし・・・」と反論してくる。

 加藤氏が叱りつけるように、こう熱く切り返した。
「日本で情報がない?何言っているんだ?中国なんて全然ないよ。政府が情報統制しているんだから。でも中国人は必死に情報集めている。接続できないサイトに危険を冒して裏口から接続したり、海外を自ら歩いたりして。ビザの問題で日本人に比して中国人は自由に海外に出歩けないのに。日本人は最強のパスポートを持っている。加えて今は最強の通貨も持っている。何をためらっているんだ!最も海外に行くのに恵まれているのが今の日本人じゃないか?」東大生は圧倒され黙り込む・・・

私も続けた。
「これを機会に情報は自分で集めるモノという癖をつけたほうがいい。情報は与えられるものと思っていると、ある意図を持って操作された情報だけしか入らなくなる。例を二つ挙げよう。TPPとオリンパス。TPPなんてアメリカじゃ誰も知らない。日本では誰でも知っていて大騒ぎだ。オリンパス問題なんて日本より一か月以上前から海外では報道されていた。世界で流れている情報と日本国内で流されている情報には、かい離が生じている。自分で海外の情報を取りに行く癖をつけないとこれからの時代は切り開けない」
早熟天才高校生の悩み

最も切実だったのがすでに海外体験のある、早熟型天才君の反論。彼は高校生。
「僕は模擬国連まど色々な国際体験を積んできました。そこで世界の同世代のエリートと呼ばれる人たちとも交流してきました。変な人たちばかりなんです。自分勝手というか、あまり公共心もなく、知識や教養も感じられずレベルも高いと思えませんでした。東大に行った方がもっと知識や教養があって公共心もある同世代と出会えるような気がします」とのこと。

 模擬国連に加えて、小学5年生で英検一級を取ったりと、彼は相当に優秀。アメリカや中国だったら、間違いなく飛び級ですでに大学を卒業しているくらいの早熟度だと感じた。

私は「まじめに勉強している日本の高校生なら多分18歳の時点では世界最高レベルだと思う。ただ、世界の連中が本気を出して勉強してくるのは、これから。高校生まではあまり勉強しなかったような連中が、目の色を変えて勉強を始める。アメリカの名門大学なら、学生に年間200冊は読ませる。君のような人材ならおもしろい勉強がこれからできる。

18歳でピークだったものが、日本の大学に入れば、22歳時代ではボトムアウトしている可能性がある。しかし、君のような人材がアメリカの名門に入れば、さらに磨かれる。日本にも君のような天才がいるということを見せつける意味でも、ぜひアメリカの名門大学も視野に入れて欲しい」と熱く答えた。

正直、あんなにできる高校生を飛び級がほとんどない日本の悪平等教育の中に置いておくのは本人にとって退屈だと思う。できる人材は早いうちから社会の為に活かせるよう飛び級や学際交流研究をさせた方がいいと思う。本人にも社会のためにも。

質疑応答での中国人留学生の指摘が会場を沸かせた。彼女も東大生。
「中国なら『「若者よ世界へ出ろ』なんてパネルは成立しません。だってみんな猛烈に外へ出たいんですから。中国人はたくさんのハードルとリスクがありながら外へ出たいんです。
加藤さんが言うように、情報も統制されているし、ビザ取るのも大変だし、お金も日本人よりないし。でも海外へ出たい。こんな議論している日本人がうらやましいです。こんなに恵まれているのになぜ出ない?」というもの。
最強の秘密結社?!

 パネル後の懇談では、皆の海外進出への意識がさらに高まったように感じだ。多くの大学生や高校生が「皆さんに強く背中を押されたように感じます。絶対留学します」「もう留学が決まっています。就活が不安だったけどもっと大きな志で頑張ってみます」「まだ高校生ですが、学部からハーバードに行きたいです。その思いが強くなりました」と握手を求めに来て語ってくれた。懇談の列は絶えなかった。
そもそも土曜の昼下がりに4時間近いパネルディスカッションを聞きに来る人たちがこんなに大勢いること自体、日本は内向きではないと確信した。次世代と日本の未来に自信が持てた土曜の昼下がりだった。

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