2011-02-10

北京大学と清華大学

北京大学と清華大学、評価が高いのは?
「総合」「富豪数」の北京、「OBの寄付金」「政界人」は清華


 日本の最高学府の双璧と言えば、東京大学と京都大学ということになるが、中国の双璧はどこかと中国の人に尋ねれば、誰もが迷わずに、“北京大学”と“清華大学”と答える。その歴史は前者が1898年に設立された“京師大学堂”、後者が1911年に設立された“清華学堂”を原点としており、今年、2011年の4月24日は清華大学の創立100周年の記念日に当たる。それでは、両校が大学としてどれほどの実力を誇っているのか。2011年1月17日に、民間の著名な大学評価機構である「中国校友会ネット」と人材専門紙『21世紀人材報』が発表した「2011年中国大学評価研究報告」をベースに検証してみよう。

「中国の幸福をもたらす大学ランキング」


 「2011年中国大学評価研究報告」の主題は、中国の各大学を総合的に評価したランキングであり、そのトップ10を示すと<表1>の通りである。これは各大学を各種分野にわたって100点満点で評価したものを合計した総合評点で順位付けしたものである。第1位の栄冠に輝いたのは総合評点100点の北京大学であり、惜しくも第2位に甘んじたのは96.18点の清華大学であり、両校は中国の最高学府の双璧としてその地位を不動のものとしている。第3位以下の各大学はいずれも名立たる名門大学であるが、第2位の清華大学と第3位の浙江大学の総合評点の差は実に40点もあり、中国の大学の中で北京大学と清華大学が飛びぬけた存在であることが見て取れる。


<表1> 2011年中国大学ランキング・トップ10
順位 学校名 所在地 類型 総合評点

1 北京大学 北京市 総合 100点

2 清華大学 北京市 理工 96.18

3 浙江大学 浙江省 総合 56.10

4 復旦大学 上海市 総合 55.57

5 南京大学 江蘇省 総合 42.90

6 上海交通大学 上海市 総合 42.52

7 武漢大学 湖北省 総合 39.37

8 中国人民大学 北京市 総合 36.61

9 華中科技大学 湖北省 理工 34.56

10 中山大学 広東省 総合 33.77


 上述のような大学評価ランキングだけならばありきたりの代物で、別に大した興味も引かないのだが、この報告には“2011中国造富大学排行(2011年中国の幸福をもたらす大学ランキング)”という興味深い研究報告が含まれている。中国語で“造富”とは読んで字の如しで、「富を造る」ということから転じて「金持ちになる」ということを意味する。そこで、どうして大学が「金持ちになる」につながるのかということになるが、名門大学を卒業したという事実が個人の知的能力の高さを示すと同時に、同じ大学の同窓生であることによる相互扶助が、実業の世界で大きな飛躍を遂げて富豪になる原動力となっているということなのだろう。

 さて、何事でもランキング好きの中国には「富豪ランキング」が何種類も存在する。その中で、有名なのは“胡潤百富榜(フージワーフ100富豪ランキング)”、“南方週末中国人物創富榜(新聞「南方週末」富豪ランキング)”、“新財富500富人榜(雑誌「新財富」500富豪ランキング)”、“中国校友会網中国創業富豪榜(中国校友会ネット中国創業富豪ランキング)”などであるが、これらランキングにランクインした富豪2460人を最終学歴で分類してみると<表2>の通りである。


<表2> 富豪の学歴構成

順位 学歴名称 富豪数 比率 資産額100億元以上の人数(2010年時点) トップの資産額(2010年時点)

1 博士 94人 3.82% 7人 360億元

2 修士(含MBA)588(含MBA:323) 23.90% 28人 360億元

3 学士 376 15.73% 27人 400億元

4 大学専科卒 427 17.44% 16人 800億元

5 高専卒以下 975 39.11% 32人 290億元

出所:1999年~2010年中国富豪ランキングから作成


 中国で“高等教育”に分類される“大学専科”<注1>以上の学歴を持つ人の合計は1485人で、全体の60.89%を占める。これを逆に見ると、中国語で“中専”と呼ばれる“中等職業学校(高専)”以下の学歴しかなくても富豪になっている人が975人もいて、全体の39.11%を占めていることを意味しているのである。



<注1>高等専門学校、高等職業学校などを指し、卒業までの期間は2~3年。卒業しても大学本科とは異なり、学位は授与されない。


 さて、大学卒業の学士以上の学歴を持つ人の合計は1058人であるが、彼らが卒業した大学はどこなのか、2010年時点における卒業した富豪が多い大学のランキングのトップ10を見ると<表3>の通りである。


<表3> 中国富豪の卒業大学ランキング・トップ10

順位 学校名 所在地 富豪数 トップ富豪の資産額(2010年時点)

1 北京大学 北京市 79人 390億元

2 清華大学 北京市 70 115億元

3 浙江大学 浙江省 66 230億元

4 復旦大学 上海市 46 230億元

5 中国人民大学 北京市 30 240億元

6 上海交通大学 上海市 25 185億元

7 中山大学 広東省 22 110億元

8 南京大学 江蘇省 20 80億元

9 華南理工大学 広東省 18 100億元

10 華中科技大学 湖北省 17 120億元

10 武漢大学 湖北省 17 131億元


 ここでも第1位の北京大学(79人)と第2位の清華大学(70人)が鎬を削っているが、上述の大学ランキングで第3位の浙江大学が66人と健闘している。なお、2010年時点におけるトップ富豪の資産額では、北京大学の360億元(約4500億円)が群を抜いているが、これは北京大学卒業で中国最大の検索サイト“百度(baidu.com)”の創始者で董事長兼CEOである李彦宏の資産を指している。



 これに対して、海外留学して帰国した経歴を持つ富豪の卒業校ランキングを見てみると<表4>の通りである。


<表4> 海外留学帰り中国富豪の卒業校ランキング・トップ5
順位 学校名 所在国/地区 富豪数 トップ富豪の資産額(2010年時点)

1 ハーバード大学 米国 6人 38億元

2 スタンフォード大学 米国 5 20億元

シンガポール国立大学 シンガポール 5 26億元

マカオ科技大学 マカオ 5 75億元

3 香港理工大学 香港 3 50億元

4 ニューサウスウェールズ大学 オーストラリア 3 75億元

マサチューセッツ工科大学 米国 3 45億元

ミシガン大学 米国 3 45億元

5 ノースウェスタン大学 米国 3 16億元


 第1位はハーバード大学の6人だが、第2位にランクインした3校の5人と大差ないし、2010年時点におけるトップ富豪の資産額を見ても最高が75億元(約940億円)と<表3>の国内大学卒業生の金額とは大きな隔たりがある。こうして見ると、わざわざ海外留学して帰国しても実業界で成功して大富豪になる確率は小さいということになるのかもしれない。裏を返すと、先述したように国内大学の同窓生であることによる“関係(コネクション)”を生かした相互扶助が富豪になるためには大きな要素になっていることを意味している可能性もある。


「故郷に錦を飾る」意識を反映


 さて、次に卒業生による母校に対する寄付ランキングのトップ5を<表5>で見てみよう。中国では“衣錦還郷(故郷に錦を飾る)”という意識が強く、海外で成功した華僑が本国の故郷に学校、道路、橋などを寄贈して、自分の面子を立てることが一般的だが、母校に相当額を寄付するのも、これと同様な心理なのであろう。


<表5> 大学卒業生の母校への寄付金ランキング・トップ5
順位 学校名 所在地 寄付金合計 1000万元以上の寄付者数

1 浙江大学 浙江省 5億2400万元 8人

2 清華大学 北京市 3億9900万元 4

3 北京大学 北京市 3億 500万元 6

4 中国人民大学 北京市 2億5300万元 3

5 南京大学 江蘇省 8999万元 4


 第1位の浙江大学は5億2400万元(約65億5000万円)で、第2位清華大学の3億9900万元(約50億円)に1億2500万元(約15億5000万円)の差をつけてトップの座に着いたが、北京大学が3億500万元(約38億1000万円)で第3位に着けており、このランキングもトップ3は北京、清華、浙江の3大学が名を連ねた。

 なお、浙江大学が第1位を獲得するのに貢献したのは、1961年3月生まれで49歳の段永平であった。段永平は広東省東莞市を本拠とする家庭用電子機器メーカー“歩歩高電子工業”の創業者である。段永平は1977年に浙江大学の無線通信学部に入学、同学部を卒業した後、1982年に国家から北京真空管工場に配属されたが、後に中国人民大学の経済学部で計量経済学を専攻して修士を取得している。

 段永平は2006年に母校の浙江大学に300万米ドルを寄付したが、2009年12月にも再度浙江大学に76万元(当時のレートで約1000万円)を寄付している。そして2010年に、段永平は浙江大学に2.46億元(当時のレートで約32億円)、中国人民大学に2.01億元(同約26億円)をそれぞれ寄付したのである。寄付金の合計は4.47億元となり、卒業生による母校に対する寄付金としては年間の新記録を樹立した。この結果として、浙江大学は第1位の栄冠に輝くことができたし、中国人民大学も第4位にランクインすることができたのである。

 なお、「2011年中国大学評価研究報告」には上記とは別に「2011年政界で傑出している卒業生の数・大学別ランキング」が含まれていた。その詳細は下記<表6>の通りである。


<表6> 政界で傑出している卒業生の数・大学別ランキング
順位 学校名 所在地 政界で傑出している 卒業生数

1 清華大学 北京市 49人

2 北京大学 北京市 46

3 中国人民大学 北京市 36

4 吉林大学 吉林省 28

5 復旦大学 上海市 21

6 ハルピン工業大学 黒龍江省 17

7 南開大学 天津市 17

8 山東大学 山東省 14

9 上海交通大学 上海市 12

10 北京師範大学 北京市 11


 このランキングも、第1位の清華大学(49人)と第2位の北京大学(46人)が鍔(つば)迫り合いを演じており、第3位の中国人民大学以下とは大きな差をつけている。「政界で傑出している」ということをどの基準で判定したのかは分からないが、基本的には中国共産党および中国政府の高級幹部を対象として選定を行ったものと思われる。



 そこで、北京大学と清華大学の出身で活躍している著名な政界人を大学別に世代分けした<表7>を作成してみた。なお、名前が赤文字となっているのは国家主席と国務院総理およびその候補者と考えられる人物。


<表7> 北京大学・清華大学出身の著名な政界人
  北京大学 清華大学

第3世代   朱鎔基(元国務院総理)

第4世代

唐家璇(国務委員) 胡錦濤(国家主席)

李肇星(元外交部長、現北京大学教授)

呉邦国(全人代委員長)

劉延東(国務委員)

黄菊(元国務院副総理)<故人>

曾培炎(元国務院副総理)

呉官正(元中央紀律委員会書記)

第5世代

李克強(国務院副総理) 習近平(国家副主席)

李源潮(中央組織部長)

楼継偉(中国投資有限責任公司董事長)

薄煕来(重慶市党委書記)

解振華(国家発展改革委員会副主任)

袁純清(山西省党委書記)

周小川(中国人民銀行行長)

第6世代

胡春華(内モンゴル自治区党委書記)

陸昊(共青団中央書記処第一書記)  

汪永清(国務院副秘書長)  

屠光紹(上海市副市長)  


 現在の中国を担う第4世代では清華大学が圧倒しているが、第5世代では清華大学が国家主席となる予定の習近平を擁してはいるものの、力量的には人数に勝る北京大学が上回っていると言える。それが第6世代になると、現状では北京大学が圧倒的で、清華大学には人材が見当たらない。


第6世代からは一転して北京大学が優勢に


 清華大学の紹介記事によれば、1999年以来、清華大学は共産党中央政治局に9人の常務委員、18人の委員を出し、国務院の各部の“部長(大臣)”を104人、各省の党委書記および省長を81人輩出しているとある。なお、北京大学の紹介記事にはこの類の記述は見つからなかったので、1999年以降は政界人脈では清華大学が北京大学を大きく引き離していたものと思われる。但し、上述したように、第6世代からは情勢は一転して北京大学が優勢となることが予想される。


 以上で見てきたように、北京大学と清華大学はあらゆる面で他の大学を圧倒している。当然のこと、そこには中国の頭脳となるべく超エリートが集い、4年間の大学生活を経て、2010年に日本を抜いてGDPで世界第2位の経済大国となった中国をさらに発展させ、飛躍させるべく各分野に散って行くのである。こうした実態を認識して、大学優秀な人材の育成に全力を挙げて努力することが望まれるのだが、日本の現実はどうなのだろうか。

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